| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) C03-07  (Oral presentation)

絶滅危惧水生昆虫の再導入の試行-うまくいったり、いかなかったり 成果と課題-
Trial of re-introduction of endangered aquatic insects

*苅部治紀(神奈川県立博物館), 北野忠(東海大学)
*Haruki KARUBE(Kanagawa Prefectural Museum), Kitano TADASHI(Tokai University)

 演者らは、国内の絶滅危惧水生昆虫の保全に長年携わってきたが、域内保全の継続努力にもかかわらず、残念ながら野生絶滅やその寸前に至った種が増加している。減少要因としては、水域の破壊や乾燥化、植生遷移、外来種影響、農薬汚染、干ばつや異常増水など多岐にわたり、域内保全を困難にしている。
 そこで演者らは状況打破のため、環境再生だけでは生息状況の改善が見込めない地域への域外保全で増殖した個体群の導入試験を実施してきた。今回は、南西諸島での事例を紹介し、成果と課題を共有したい。
1) 増殖個体を導入したが絶滅した事例。フチトリゲンゴロウ:2か所。補強的導入を実施したが、導入後数年で絶滅。絶滅要因はネオニコチノイド系農薬の流入が主要因と考えられ、導入個体数を増やしても効果はなかった(当時は要因が不明)。
2)導入後定着して個体群が自立した事例。フチトリゲンゴロウ1か所。環境良好な池に導入し定着した。この導入池は、現在のところ国内唯一の確実な繁殖地である。
 最新の試行例としては以下のものが挙げられる。
3)フチトリゲンゴロウ 生息池を環境創出して導入(地域としては30年以上前に絶滅) 2か所のうち1か所は繁殖に成功したが、繁殖時期の異常増水継続が要因か新生個体はごくわずかであった。もう1か所は導入後2ケ月ほどで姿を消した、原因は現状不明(密漁の可能性もある)。
4)タイワンタイコウチ これまで6か所に導入したが、なかなか定着してくれない。この種は移動能力が高く、メタ個体群構造を持つと考えられる。こうした種は小規模な保全地だけでは定着が困難な可能性が高い。
 これまでの試行からの結論としては、劣化した現存産地に増殖個体を補強導入しても効果は薄い。農薬汚染や外来種など現状の問題が少ない水域や新規に創出した水域に導入する手法は有効であるが、そうした場合も、池の適切な植生管理や水位管理、監視体制の構築など課題も多くある。


日本生態学会