| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(口頭発表) C03-09 (Oral presentation)
2022年12月、国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)において、生物多様性の喪失を止め、生物多様性を保護するために、「2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として保全する」という30by30目標が合意された。30by30目標を達成するためには、自然保護地域を拡大する必要がある。しかし、どのようにこの目標を満たすように保護地域を設定するのかーたとえば小さな面積の保護地域を多く設置するのがいいのか、あるいはより少ない数ではあるが大きな面積の保護地域を設置するのがいいのかは、各国に委ねられている。こうした問題は、1970年代から議論されてきた、保護地域を設定する際に「単一の大面積とすべきか、あるいは複数の小面積とすべきか(Single Large or Several Small)」というSLOSS問題(SLOSS problem/debate)を想起させる。しかしそこでは、保護地域の質の異質性(heterogeneity)や、機会費用そして管理効率が保護地域の設定に与える影響が十分に分析されてこなかった。これらの点は、30by30の効果的な目標達成を考える上で、きわめて本質的なものと考えられる。
本研究は、こうした点を考慮し、総面積を一定とする制約条件のもとで、生物多様性からの純便益(生物多様性便益から機会費用を引いたもの)を最大化する最適な保護地域の数と面積を探ることを目的とする。具体的には、保護のための候補地の間における生息地の異質性(habitat heterogeneity)を考慮した数理モデルを構築し、保護地域の最適な設定について分析を行なった。その結果、候補地の間の異質性が高まるにつれ、より多くの保護地域(Several Small)を設定すべきことを明らかにした。しかし、同時に、保護地域の管理効率もその決定に影響を与える。たとえば、保護地域の管理が非効率的であれば、保護地域間での異質性が高い場合でも、より少ないかつ面積が大きい保護地域(Few Large)を設定することが望ましいことも示した。