| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) C03-11  (Oral presentation)

地理的に離れた国の保全活動の社会的支持をいかに促進するか?東アジアの渡り鳥の事例
How can we promote social support of conservation measures in geographically distant countries? A lesson from migratory birds in East Asia

*山浦悠一(森林総合研究所), 庄子康(北海道大学), Heiko SCHMALJOHANN(Univ Oldenburg), 雲野明(道総研林業試験場), Richard T YAO(New Zealand For Res Inst), Ding Li YONG(BirdLife International), 河村和洋(森林総合研究所, 北海道大学), 北沢宗大(北海道大学), 佐藤重穂(森林総合研究所), 青木大輔(森林総合研究所, 北海道大学), 岡久雄二(人間環境大学), 髙橋正義(森林総合研究所), 藤間剛(森林総合研究所), 先崎理之(北海道大学), 曽我昌史(東京大学)
*Yuuichi YAMAURA(FFPRI), Yasushi SHOJI(Hokkaido University), Heiko SCHMALJOHANN(Univ Oldenburg), Akira UNNO(HRO Forestry Res Inst), Richard T YAO(New Zealand For Res Inst), Ding Li YONG(BirdLife International), Kazuhiro KAWAMURA(FFPRI, Hokkaido University), Munehiro KITAZAWA(Hokkaido University), Shigeho SATO(FFPRI), Daisuke AOKI(FFPRI, Hokkaido University), Yuji OKAHISA(Univ Human Environ), Masayoshi TAKAHASHI(FFPRI), Takeshi TOMA(FFPRI), Masayuki SENZAKI(Hokkaido University), Masashi SOGA(Univ Tokyo)

遠くの場所の保全問題を扱うことは持続可能な発展を達成するための重要な挑戦である。しかし、この課題は心理的な距離の増加によって妨げられる。潜在的な解決策として、地理的に離れた国々を行き来する渡り鳥を用いて人々や遠くの場所と保全問題を共有することを視覚的に伝えることを考えた。
 そこで私たちは、鳥類の渡りルートと地域のNGOの視覚的な情報の提供が遠くの国の保全対策への支払い意志額に及ぼす影響を調査した。まず東アジア・オーストラリア・フライウェイにおいてキビタキとノビタキという2種類の鳴禽類の渡りルートをジオロケーターで追跡した。そして東南アジアの越冬地の保全対策(保護区の拡張と野生生物にやさしい農林業の実施)への日本人の支払い意志額を計測し、明らかになった渡りルートと東南アジアの保全NGOの提示が支払い意志額に及ぼす影響を検証した。
 その結果、キビタキは日本からフィリピン経由の海上ルートでボルネオに渡ると推定された。日本に戻る際は大陸経由の中国ルートを用いていた。北海道で繁殖するノビタキはインドシナ半島へ本州経由と沿海州経由の二つのルートで南下した。
 これらの二つのルートの提示は日本人の支払い意志額に明確な影響を与えなかった。自然保護区の拡張は野生生物にやさしい農林業よりも高い支払い意志額を有したが、両者の間に相乗効果は見られなかった。東南アジアの保全NGOの視覚情報の提示は日本人の支払い意志額を低下させた。
 これらの結果は、単に視覚情報を提供するだけでは地理的に離れた国で実施される生物多様性保全への社会的な支持の向上には十分にはつながらないことを示している。この課題を克服するためには、より戦略的な取り組み、例えば聴衆に応じて、海外への資金支援の意義や保全NGOが果たしている役割など市民参加の意義をより詳細に伝えることが必要であろう。


日本生態学会