| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) D01-01  (Oral presentation)

絶対単為生殖型ミジンコの休眠卵生産における幼若ホルモンの機能
Function of juvenile hormone on the resting egg production in obligate parthenogenetic Daphnia pulex

*丸岡奈津美, 宮川一志(宇都宮大学)
*Natsumi MARUOKA, Hitoshi MIYAKAWA(Utsunomiya Univ.)

休眠は多くの生物にとって不適環境下での個体群維持に重要である。絶対単為生殖型のミジンコ(Daphnia pulex)では、好適環境下では雌個体が単為生殖により急発卵を生産するが、餌不足や競争者の増加時には休眠卵を生産する。発表者はこれまでに、ミジンコ系統間における休眠卵の生産頻度やタイミングの違いが、系統の生存戦略の違いによるものであると示した。しかし、この戦略の違いをもたらす分子基盤はもとより、休眠卵がどのように生産されるのか、その分子メカニズムすらほとんどわかっていない。このような背景のもと、発表者は休眠卵生産前に幼若ホルモン(JH)分解酵素遺伝子が高発現することを見出した。JHは昆虫で脱皮や変態を制御するホルモンであり、ミジンコ属でも性決定など様々な発生現象に関わっているが、休眠卵生産を制御するのかは不明である。本研究では、絶対単為生殖型ミジンコを使用したJH類似物質の暴露実験により、休眠卵生産にJHが関与するか調べた。
第一に、休眠卵の生産頻度が異なるミジンコJPN1, JPN2系統を、急発卵が誘導される高餌濃度および、JPN2のみ休眠卵が誘導される低餌濃度で飼育し、抱卵までJH類似物質Fenoxycarb(Fen)とPyriproxyfen(Pyr)を暴露した。結果、JPN2では両物質において、暴露により休眠卵生産個体の割合が増加し、高餌下でも多くの休眠卵生産個体が見られた。JPN1でもFen, Pyr暴露により高餌下でも休眠卵生産個体が出現した。続く実験では、JPN2を高餌濃度で飼育し、ミジンコ体内のJHと予想されるMethyl farnesoate(MF)および、その前駆物質で不活性型のFarnesoic acid(FA)を暴露した。結果、MF暴露でのみ休眠卵生産個体が出現し、JHが休眠卵生産を正に制御することが示された。最後に、どの齢での暴露が休眠卵生産の誘導に重要なのか調査するため、抱卵まで24時間ずつFen暴露タイミングをずらして飼育した。発表では、以上の実験を踏まえ、ミジンコの休眠卵生産にJHがいつ、どのように機能するか考察する。


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