| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(口頭発表) D01-04 (Oral presentation)
近年タンパク質危機が叫ばれており, その解決策の1つとして昆虫の利用が提唱されている. その中で, サイカブトは25℃で年3世代を飼育できること, 未利用資源である腐植を何でも食べることなど, 優れた特徴を持つ. 実際に, アフリカや東南アジアではサイカブトの新規のタンパク源としての研究が始まりつつある. 加えて, 韓国ではカブトムシが医薬用に養殖されており, サイカブトの幼虫にも抗肥満作用などがあることから, 新たな創薬のリソースとしての可能性がある.
カブトムシでは, 1齢幼虫での成長率とその変異が大きいのに対し, 2・3齢では共に小さいため, 1齢幼虫での成長が成虫の体サイズの変異に影響している可能性が示唆されている(Hoshizaki 2020)が, サイカブトの成虫の体サイズに影響を与える要因は明らかにされていない. そこで, 本種の肥大化法を開発することを最終的な目標として, 1齢幼虫における成長が, 各齢の体サイズへ与える影響について研究を行った.
赤土と市販のマットを1:1で混ぜた餌を質の悪い餌, 赤土を混ぜていない市販のマットを質の良い餌とした. 1齢期に2種類の質の餌を与えた後, 2齢以降は質の良い餌で飼育を行った. 成長は, 各齢期の初期体重, 頭幅と期間を比較した. 飼育は25℃, 16L8Dの条件下で行った.
その結果, 2齢幼虫の雌雄の頭幅, 2齢の雌の初期体重は, 1齢時に質の良い餌を与えた区の方が有意に大きかったが, 3齢の頭幅, 初期体重, 2齢期間には有意な差は見られなかった. また, 雌の2-3齢間における初期体重の増加率と雌雄の2-3齢間における頭幅の増加率は質の悪い餌を与えた区の方が有意に大きかった. これらのことから, 1齢での成長による差は2齢期の成長により消失するため, サイカブトでは1齢での成長はあまり重要ではない可能性が示唆された. この原因として, 代償性成長(成長の阻害要因から解放された時に同齢の個体よりも生育速度が大きくなる)が考えられた.