| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) D01-06  (Oral presentation)

北アルプスにおけるニホンジカの冬季生息地利用【B】
Winter habitat use of sika deer Cervus nippon in Northern Japan Alps【B】

*黒江美紗子(長野県環境保全研究所)
*Misako KUROE(Nagano Env. Con. Res. Inst.)

日本各地で分布を拡大するニホンジカは,標高の高い山岳地にも進出している.平野部や低山で林床植生を消失させたニホンジカによる採食圧は,高山帯や亜高山帯に生育する希少な高山植生にも及んでいる.現在,本州の高山植生のうち,北限にあたる岩手県早池峰山から南限の愛媛県西赤石山まで,どの高山生態系でもニホンジカの出没は記録されており,ニホンジカに到達されていない高山植生は存在しないと言える.唯一,現在でもニホンジカ採食圧による影響が小さい高山植生は,中部山岳の北アルプスである.特に北アルプス北部黒部峡谷周辺の後立山連峰や立山連峰は,少なくとも1900年代前半から2006年までニホンジカの生息記録が報告されておらず,過去100年ほどニホンジカの採食圧を受けていない本州唯一の高山生態系と言える.
しかし,北アルプス北部でも2000年代から山地帯や低山でニホンジカの侵入が開始し,2013年には後立山連峰南部の爺ヶ岳稜線でニホンジカが撮影され,2019年には山麓で下層植生への採食痕や植生変容が確認された.高山・亜高山帯に進出する個体の数を制限し,高山植生への採食圧を抑えるには,山麓での低密度管理が重要となるが,北アルプスのような多雪地での冬季生息場所利用には,いまだ不明な点が多い.そこで本研究では,後立山連峰長野県側山麓を対象に,北アルプス周辺のシカ個体群が冬季に利用する場所について明らかにするため,積雪期の痕跡調査および狩猟者によるニホンジカ目撃情報収集を実施した.
長野県北部の小谷村および白馬村内にランダムに設定した調査地点を対象に,積雪に残されたニホンジカの足跡や植物に残された採食痕を記録し,各地点におけるニホンジカ出没の有無と程度を調べた.また,調査対象地で継続的に狩猟を行っている狩猟者を対象に,過去のニホンジカの目撃例を収集し,現在のニホンジカ出没地点と比較を行った結果について紹介する.


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