| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(口頭発表) D01-07 (Oral presentation)
イノシシのメスは日長12時間を超えると徐々に発情が停止する個体が現れはじめ、最高気温が20℃を超えるとすべての個体の発情が停止する。これらの環境条件が解除されたのち、栄養状態が回復すると、発情を再開する。このとき、栄養状態の回復に大きく貢献するのがブナ科堅果類である。山口県個体群では11月以降、主にツブラジイの堅果に強く依存し、急速に栄養状態を回復させる。通常単独生活のオスは12月~3月の繁殖期になると、メス群れに帯同し、メスの発情を待つようになる。そのため、メスの発情日をメスが受胎した日と仮定すると、胎児の日齢を算出しメスの捕獲日から遡ることで発情(受胎)日を推定することができる。また妊娠の有無や性別に関係なく、捕獲個体の週齢査定によって出生日を推定し、さらに妊娠期間を遡ることで、その母親が発情した日を推定することができる。
本研究ではツブラジイの豊作年を経験したメスは栄養状態の回復が早く、不作年に比べ発情の再開が早まると仮説を立て、メスの栄養状態と発情の2つの観点からツブラジイの豊凶の影響を解析した。腎周囲脂肪を用いた栄養状態指標S-KFMは、ツブラジイの豊作年は11月以降、不作年に比べ高い値をとり推移していた。11月1日から受胎日までの日数を目的変数とし、豊凶年を説明変数に用いた一般化線形混合モデルによる解析の結果、ツブラジイの豊作年は、不作年に比べ受胎日までの日数が有意に短くなっていた(P < 0.05)。豊作年と不作年間の受胎日の差は約30日で、このことは母親が豊作年を経験するとその子は30日程度早く生まれることを示唆している。生まれた子は冬までの成長期間を長く確保できる一方で、自身が経験するのは不作年であり、今後ツブラジイの豊凶が各コホートの生存率などに与える影響について明らかにする必要がある。