| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(口頭発表) D01-08 (Oral presentation)
森林性鳥類の多くは,コケを巣材として用いる.鳥類の繁殖成功は捕食に大きく左右されることから,巣材のコケはおもに巣の隠蔽機能を果たしていると考えられる.だが,巣材として特定の分類群のコケを好んで使用するかどうかや,巣材に使われるコケにどのような機能が求められるかはほとんど分かっていない.
本研究は,主要な巣材がコケであるミソサザイを対象に,天敵相と巣材のコケの構成種を調べ,巣材の機能と選好性を考察した.
天敵相については,直接観察とトレイルカメラによって探索した.愛媛県と高知県の山林で発見した7巣にカメラを設置した.その結果,巣を襲うカラス,カケス,イタチが撮影された.カラスやカケスは昼間に襲撃していた一方,イタチは夜間に訪れて巣の周辺を嗅ぎ回っていた.これらの動物は,それぞれ,視覚と嗅覚が優れていることから,ミソサザイの巣には視覚的および嗅覚的な隠蔽性が要求されると考えられる.さらに,ミソサザイのオスがシマヘビに遭遇した際,ヘビとの間に一定の距離を保ちつつ,注意を惹きつけながら,なわばりの外へと誘導するという行動が観察された.これは「はぐらかし誇示(distraction display)」の一つとして解釈できる.卵や雛がない状態でこのような防衛行動をとることは稀であり,巣場所を天敵に記憶させないための行動と考えられる.
同一個体のオスにより作られた3巣のコケを調べた結果,いずれもハイゴケ目のセン類が多く使われていたが,種構成は巣ごとに大きく異なった.このことから,この個体には特定種のコケを好む傾向はみられなかった.
本研究は,ミソサザイの巣が視覚や嗅覚の優れた多様な天敵から捕食を受けることと,ミソサザイのオスがシマヘビに対して未知の防衛行動をとることを発見した.また,巣材のコケの種から,ミソサザイは巣に多様なセン類を用いることを解明した.一連の成果から,巣材としてのコケの機能に対する示唆が得られた.