| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) D01-09  (Oral presentation)

個体密度と景観連結性を推定する空間標識再捕獲法:シミュレーションによる不偏性評価【B】
Spatial capture-recapture methods for simultaneous estimation of population density and landscape connectivity: a simulation study【B】

*深澤圭太(国立環境研究所)
*Keita FUKASAWA(NIES)

動物が不均一な景観においてどのように移動しているかを明らかにすることは、分断化された景観における保全策の検討や人間と野生動物の軋轢を緩和する上で重要である。空間標識再捕獲法は生物の個体密度と動物の移動プロセスを統合的に分析できるツールとして注目されているが、標識再捕獲データから正しく連結性のパラメータを推定することはこれまで困難であった。
 発表者は移流拡散方程式で記述された柔軟なホームレンジ形成プロセスを組み込み、個体密度と景観の連結性を同時に推定することができる空間標識再捕獲モデル、移流拡散標識再捕獲モデル(ADCR)を開発した。本発表ではステップ選択関数を用いた動物行動のシミュレーションによって生成した100反復の疑似データにADCRを適用し、連結性に対する景観の効果・個体密度・ホームレンジサイズを正確に推定できるか検証した。連結性に影響する景観パターンはランダムなパッチ構造を持つように自動生成し、ラスタデータとして解析に組み込んだ。また、景観生態学においてしばしば問題となる生成プロセスと入力データの空間解像度の不一致の影響を評価するため、推定に用いる景観データの空間解像度を半分にしたデータに対しても推定を試みた。
 その結果、ADCRは全てのパラメータをバイアスなく推定できることが分かった。また、データの空間解像度の違いに対しても推定値はきわめて頑健であった。このような推定値がもつ良好な性質は、本手法で用いたホームレンジ形成モデルがbiased random walkやサーキット理論と明確な関係を有することによるものである。ADCRは個体-個体群の異なる階層をまたぐプロセスの検証に用いることが可能であるとともに、バイオロギングデータと標識再捕獲データの統合モデリングにおいても有益であると考えられる。


日本生態学会