| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) D02-03  (Oral presentation)

気温と台風どちらが重要?ツマベニチョウの個体群動態を制御する環境要因の地域的差異【B】
Regional difference in environmental factors regulating population dynamics of H. glauccipe - Which is important: temperature or typhoons?-【B】

*中溝航, 佐竹暁子, 小川浩太(九州大学)
*Wataru NAKAMIZO, Akiko SATAKE, Kota OGAWA(Kyushu Univ.)

ツマベニチョウ Hebomoia glaucippe は東洋区に広く分布する世界最大級のシロチョウであり、日本でも九州以南に生息している。日本における唯一のホスト植物はギョボクCrateva religiosaであり、落葉性であるが、八重山諸島では台風による撹乱を受けてフェノロジーを乱されることが観察されている。具体的には、台風が引き起こす強風によって自然落葉よりも早期にギョボクの落葉が起こると、年を跨がずに萌芽が起こることで本来落葉して葉の見られない冬期に若い葉が残ることが観察されている。加えて台風落葉後に芽吹いた新芽へのツマベニチョウの産卵が観察されており、産まれた幼虫は冬期でもその若い葉を食べ成長することができると考えられる。一方で八重山諸島よりも北に位置し、僅かに気温が低い沖縄本島では、台風落葉後に萌芽が引き起こされないため冬期に葉が見られない。
これらのことから沖縄本島と八重山諸島でツマベニチョウは異なる個体群動態を示すことが考えられ、本研究では蝶の愛好家向けに発行された雑誌から取得した、沖縄本島及び八重山諸島に属する石垣島のツマベニチョウの約10年間の個体数時系列を分析した。まず自己相関関数を各時系列に使用したところ、沖縄本島の個体数時系列には1年の周期性が見られる一方で、石垣島の時系列では周期性が見られなかった。次に、個体群動態の地域差を生むを環境要因を探るために、2島の個体数時系列とそれぞれの地域の気象情報を用いて、Convergent cross mapping (CCM)による時系列因果推論を行なった。その結果、沖縄本島では平均気温が重要な環境要因であり、気温の季節的な周期性が個体群動態の年周期性を引き起こすことが示唆された。一方石垣島では降水量と最大風速が個体群動態に重要な要因であり、加えてこれら2つの環境要因は約2ヶ月後の個体群動態に影響することが示され、台風が引き起こすギョボクのフェノロジー撹乱による長期的な影響が石垣島の個体群動態を制御することが示唆された。


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