| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(口頭発表) D02-06 (Oral presentation)
沖縄県の八重山諸島に生息するヤエヤマハラブチガエルNidirana okinavanaは、森林伐採等に伴う湿地の消失により生息状況の悪化が懸念され、環境省RL2020では絶滅危惧Ⅱ類とされているが、個体群の存続可能性に着目した研究は少ない。本研究では、本種の繁殖状況と遺伝的構造の解明を目的に、複数の地域個体群を対象に齢構造解析と遺伝学的解析を行った。2019年7月~2022年9月に石垣島6地点と西表島5地点でサンプリングを行い、後肢指骨の一部を試料として採取した。齢構造解析ではスケルトクロノロジーにより年齢を推定した結果、1-5歳の個体が確認され、2歳になると性成熟に達することが示唆された。多くの地点では2-3歳の個体が占める割合が高く、4歳以上の個体の割合は顕著に低くなった。個体群の齢構造から繁殖状況を検討した結果、9地点では繁殖が継続的に行われているが、石垣島の2地点は一時的に繁殖できなかった年があったと考えられた。遺伝学的解析ではミトコンドリアDNAのCOⅠ遺伝子(1,554bp)の配列を決定し、SAMOVA分析による標本集団のクラスター分類を行った。その結果、石垣島の6地点は5集団に、西表島の5地点は2集団に分類された。各地点のハプロタイプ組成を比較すると、11地点のうち石垣島の1地点は他地点とハプロタイプを共有しておらず、独自の遺伝子型のみを保有していた。これらの結果から、石垣島では西表島に比して複雑な遺伝的構造を有しており、地域個体群間の遺伝的な分断が進んでいると考えられた。以上のことから、石垣島と西表島の多くの個体群においては、安定的な繁殖環境が確保されている一方、石垣島のいくつかの個体群においては、不安定な繁殖環境や地域個体群間の遺伝的な分断の進行といった状況があり、個体群の存続が危うい可能性があると考えられた。