| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) D02-07  (Oral presentation)

北海道東部に来遊するシャチ(Orcinus orca)のミトコンドリア全ゲノム解析
Complete mitochondrial genome analysis of killer whales (Orcinus orca) in eastern Hokkaido, Japan.

*河合真美(北大院・環境科学), 三谷曜子(京大・野生動物研), 早川卓志(北大院・地球環境), 北夕紀(東海大・生物学), 吉岡基(三重大・生物資源), 大泉宏(東海大・海洋学), 中原史生(常磐大学), 斎野重夫(所属なし)
*Mami KAWAI(Hokkaido Univ.), Yoko MITANI(WRC, Kyoto Univ.), Takashi HAYAKAWA(Env. Earth, Hokkaido Univ.), Yuki KITA(Bio, Tokai Univ.), Motoi YOSHIOKA(Mie Univ.), Hiroshi OHIZUMI(Marine, Tokai Univ.), Fumio NAKAHARA(Tokiwa Univ.), Shigeo SAINO(No Institution)

 海洋の頂点捕食者であるシャチは一属一種に分類されており、母系の群れを構成する。群れごとに生態や形態的特徴が明瞭に異なり、これを生態型と呼ぶ。生態型間では生殖隔離が生じており、ミトコンドリアゲノム(以下ミトゲノム)のハプロタイプの塩基配列で識別可能である。日本を含む北東太平洋には、Resident型(魚食性)、Offshore型(板鰓類食性)、Transient型(哺乳類食性)の3つの生態型が存在する。北海道東部に来遊するシャチの生態型については、目視調査による把握に限定され、ミトゲノム系統は不明である。本研究では、北海道東部のシャチ10個体(オホーツク海:O1–O7、釧路沖:K1–K3)において、ミトゲノム系統から生態型を推定することを目的とした。漂着した4個体(2005年:O1–O3、2020年:O7)と、バイオプシーサンプル6個体(2013–2017年:O4–O6、K1–K3)において、ショットガンシークエンシングによりミトゲノム全長配列を決定し、既知のシャチミトゲノム配列とともに、最尤法による系統樹を構築した。
 10個体のうち、全長増幅ができなかったO7を除く9個体でミトゲノム全長配列を決定した。4個体(O5,O6、K1、K3)は、先行研究によりResident型もしくはOffshore型と推定されていたが、今回、全てResident型の系統に分類され,魚食性と推定した。これら4個体に近縁なハプロタイプは極東ロシアとアラスカの個体由来であった。残りの5個体(O1–O4、K2)はTransient型の系統に分類され、O1–O4は同一のサブクレード、K2は別のサブクレードに属した。近縁なハプロタイプはO1–O4が極東ロシアとアリューシャン列島、K2がアメリカ西岸とベーリング海の個体に由来した。これら5個体は哺乳類食性と推定した。シャチは保全状況の情報が不足しているが、生態型により取り組むべき保全管理手法は異なる。今後、従来の目視観察に加えて、より多くの群れを対象に遺伝情報を得ることで、北海道東部でのシャチの生態型を明らかにし、保全実践に繋げていきたい。


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