| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(口頭発表) D02-11 (Oral presentation)
離合集散の社会生態をもつ動物種では,個体の流入出により群れの構成員がしばしば変化する。離合集散社会をもつ鳥類を対象としたこれまでの研究では,個体の合流による群れ内での社会交渉の変化,および個体の順位決定やそれに伴う既存順位への影響は検証されていない。本研究では,離合集散社会における優劣関係の形成,維持メカニズムを明らかにすることを目的に,別々に飼育されたハシブトガラス(Corvus macrorhynchos)2群を合流させる操作実験を行った。合流期間21日間を1週間(合流初期,1~7日目:合流中期,8~14日目:合流後期,15~21日目)ずつ,3つの期間に分け,社会交渉(攻撃交渉と羽繕い交渉)とアソシエーション(個体間の空間的近接性)を記録した。合流操作が社会交渉頻度および優劣関係におよぼす影響と,社会交渉とアソシエーションにもとづく社会ネットワーク構造におよぼす影響とを分析した。結果,2群の合流後,元の群れが異なる個体間で生じた羽繕い交渉は時間とともに増加し,元の群れが同じ個体間で生じた羽繕い交渉は減少した。攻撃交渉は期間を通じてほぼ生じなかった。合流前の各群における個体間の優劣順位は,合流後もその相対的関係が維持された。社会ネットワーク分析では,コミュニティ検出の結果,合流初期には2つのコミュニティが検出された。合流後期では,合流初期より低いモジュラリティが算出され,ハブ個体を中心とした1つのコミュニティが検出された。指数ランダムグラフモデル(ERGMs)による分析の結果,合流初期と合流中期では羽繕い交渉に対して,合流後期では攻撃交渉に対して有意なアソシエーションの効果が見られた。以上の結果は2群の合流操作後,元の同じ群れの個体間での社会関係は維持しつつも,異なる群れの個体間で新たに形成された社会関係に基づく,社会ネットワークが構築されたことを示唆する。