| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(口頭発表) D03-01 (Oral presentation)
マダニは、人獣共通感染症の病原体を保有動物から人へと伝播する媒介生物である。日本では、日本紅斑熱(JSF)や重症熱性血小板減少症候群(SFTS)などのマダニ媒介感染症の発生地域が拡大している。マダニの発育には宿主動物からの吸血が必須であることから、マダニと宿主動物の種間関係の解明は、感染症対策の基礎情報として不可欠である。2017年にSFTS感染が発生し、JSFの流行地域でもある千葉県では、JSF感染拡大の要因として、ニホンジカ(Cervus nippon;以下、シカ)の分布拡大が指摘されているが、その他の野生動物については不明な点が多い。そこで、本研究では、千葉県全域に13か所の調査地を設定し、旗ずり法によるマダニ調査および自動撮影カメラによる野生動物調査を行い、マダニと野生動物の分布との関係性を解析した。マダニ調査の結果、調査地全体でヒゲナガチマダニ(Haemaphysalis kitaokai)成虫とキチマダニ(H. flava)若虫が多かった。野生動物は、キョン(Muntiacus reevesi)の撮影数が最も多く、次いでイノシシ(Sus scrofa)とシカが多かった。マダニと野生動物は、両者ともに千葉県北部では少ないのに対し、県中央部および南部では多い傾向がみられた。さらに、マダニと野生動物の関係性を冗長性分析(RDA)で評価した結果、ヒゲナガチマダニ成虫はシカやキョンとの関係性がみられた一方で、キチマダニ成虫ではイノシシ、アナグマ(Meles anakuma)、アライグマ(Procyon lotor)およびタヌキ(Nyctereutes procyonoides)と関係性がみられ、マダニ種ごとの違いが認められた。JSFを媒介すると推測されるキチマダニは複数の野生動物との関係性がみられたことから、関連する野生動物を複数種管理することの重要性が示唆された。このことは、感染症対策を進める重点地域の特定、野生動物管理の優先順位を検討する上で重要な基礎情報になると考えられる。