| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) D03-03  (Oral presentation)

温帯二次林におけるアリ類の樹幹利用
Utilization of tree trunks by ant species in a temperate secondary forest

*井上哉太, 吉田智弘(東京農工大学)
*Kanata INOUE, Tomohiro YOSHIDA(Tokyo Univ. Agr. Tech.)

 森林は垂直構造を有しており,地上と地下を移動する動物は,森林生態系における両システムのつながりにおいて重要である.このような動物の移動の強度が局所スケールで異なることによって,地上と地下のつながりに異質性が生じているものと考えられる.本研究では,地上と地下の移動を行うアリ種が,どのような環境条件・種構成の下で移動するかを明らかにすることを目的とした.2022年5月~6月にかけて,東京都内の温帯二次林において,樹幹のアリ種を目視による調査で記録し,環境条件(微地形[尾根・南向き斜面・北向き斜面・谷],胸高直径,樹種)との関係やアリの種構成の傾向を解析した.
 調査の結果,樹幹を利用していたアリ種数は,調査木の位置する微地形,樹種によって異なった.微地形の違いは,日当たりに違いによるものと推察された.また,樹種はアリの利用可能な資源量に違いをもたらしたと考えられる.樹幹に出現するアリ種は,他種との排他的な関係は見られず,出現頻度の高かった種同士や一部の種の組み合わせでは,同所的に出現しやすいといった傾向が見られた.これらのことから,広葉樹二次林において特定のアリ種による樹幹の見かけ上の独占は無く,優占種は利用に好適な樹木の樹幹上で共存していることが示唆された.以上のことから,本研究は,地上と地下を移動するアリ類の種数が局所的な環境条件によって異なり,それらが樹幹で共存していることを示した.これらの結果は,森林内でのアリ種による地上と地下のつながりが,局所的に異なる影響をもたらしていることを示唆している.


日本生態学会