| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) D03-04  (Oral presentation)

温泉環境に生息する地表性節足動物群集
Community of arthropods around hot springs

*大寺真菜, 金尾太輔, 井村匠(山形大学)
*Mana OTERA, Taisuke KANAO, Takumi IMURA(Yamagata University)

 火山の土壌及び河川は局所的に高温かつ酸性或いは塩基性となるため、火山生態系における生物の群集構造は他の生態系と異なっていると考えられる。しかし、火山における生物学的研究は水界や土壌動物相に関するものが多く、地表性節足動物については、どのような種が生息しているのか明らかになっていない。
 山形県と宮城県を跨ぐ活火山である蔵王山は、火山性温泉やカルデラ湖、噴気地熱地帯を有し、泉質や地質について盛んに研究が行われている。そこで我々は、蔵王山各地の地表性節足動物の種構成と環境要因との関係を調査した。
 蔵王山の8地点において、地表性節足動物の採集と温度・酸性度の計測を5月から7月まで、計3回実施した。標高、温度、酸性度が個体数、種数、多様度に与える影響をGLMによって、種構成の類似度に与える影響をPERMANOVAによって分析した。
 GLMの結果、個体数と酸性度との間で有意な負の関係が認められたが、種数と多様度では有意な関係性は見られなかった。この結果は、強酸性環境において一部の種の個体数が大幅に増加したことによると考えられる。また、温度及び標高と、個体数、種数、多様度との間に有意な関係性は見られなかった。この要因は、温泉を湧出する火山環境では高標高でも生育可能温度が保たれていたり、逆に適温でも強酸性環境であるために種数が限られたりと、生物をとりまく環境要因の間に複雑な相互作用が存在するためと考えられる。
 PERMANOVAではいずれの環境要因も種構成の違いを有意に説明できなかったが、NMDSでは各地点の種構成が似通う傾向があったことから、GLMと同様に、実際の環境要因がより複雑であるため今回対象とした環境要因では不十分だった可能性がある。
 以上より、強酸性環境において一部の種で個体数が増加する傾向、火山環境における地表性節足動物群集が各環境要因によって複雑に影響を受けていることが示唆された。


日本生態学会