| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(口頭発表) D03-05 (Oral presentation)
生物の侵入・分布拡大は生態系に大きな影響を与える。近年人為的な導入や、地球温暖化・人間の土地利用様式の変化に伴って、生物がそれまで生息していなかった地域へと侵入する事例が相次いでいる。特に哺乳類の侵入は、その糞を利用する糞虫(コガネムシ上科食糞群)の群集構造に影響を与える可能性がある。糞虫は糞の分解、栄養循環、種子の二次散布など多くの生態系サービスを提供し、その群集組成が変化することで、生態系機能も変化することが知られている。しかし、外来哺乳類の侵入が糞虫群集に与える影響の知見は限定的であり、統一的な見解は存在しない。本研究は哺乳類-糞-糞虫の個体群動態モデルを用いて、外来哺乳類の侵入が、在来糞虫群集の個体群動態にどのような影響を与えるかを解析した。在来集団では、在来の哺乳類と在来哺乳類糞スペシャリストの糞虫、および外来糞も利用するジェネラリスト糞虫が安定的に共存しているとし、そこに外来哺乳類が侵入する状況を仮定した。モデルの解析の結果、外来哺乳類の侵入は在来糞スペシャリスト糞虫の個体数を減少させるという結果が得られた。同時に、在来糞虫間の相対的な競争の強さが変化するということも示された。また、ジェネラリスト糞虫の糞選好性が変化することで、糞虫個体数も大きく変化した。ジェネラリスト糞虫の外来哺乳類糞への選好性が高いほど、ジェネラリストからスペシャリストへの競争も緩和され、スペシャリスト糞虫の個体数減少も抑制されるという結果になった。今回得られた結果は、哺乳類の侵入や分布拡大が糞虫群集に対してどのような影響をもたらすかの基礎的な知見となり得る。糞虫の群集構造の形成・維持メカニズムの理解が生態系機能の理解とその維持にどのように役立つか議論する。