| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(口頭発表) D03-06 (Oral presentation)
中部日本にはスズメバチ属やクロスズメバチ属の蜂の幼虫や蛹(これらは蜂の子と呼ばれる)、成虫を食べる文化がある。それらの地域では、蜂愛好家がクロスズメバチやシダクロスズメバチの巣を採集し、自ら作った巣箱を使って飼育し、巣を成長させた後で蜂の子や成虫を収穫し、食べている。蜂愛好家はそれぞれが、工夫を凝らした巣箱を使い、飼育する蜂の成長に適すると考えた餌を与えている。蜂に与えられる餌としては、川魚、ザリガニ、ヘビ、カエル、鶏肉、昆虫が一般的であったが、近年では鹿肉や猪肉も与えられている。蜂の飼育は屋外で行われ、飼育巣の働き蜂は野外で自由に採餌活動でき、与えられた餌以外の餌生物を持ち帰ることも普通に観察される。
蜂愛好家たちは自宅や自宅近くの山林内で、多い場合には20巣以上を同所で飼育している。シダクロスズメバチは、日本に分布するスズメバチ亜科の蜂の中では生産個体数が最も多く、巣を大きくするため、愛好家から飼育対象として好まれている。他方で、愛好家が給餌しているとはいえ、飼育場所周辺の生物群集に与える蜂の捕食の効果は大きいと推察される。他方で、クロスズメバチ属の蜂の餌生物種に関しては知見が十分であるとはいえない。そこで、本研究では超並列シーケンサーを用いて、シダクロスズメバチの飼育巣と野生巣の幼虫の消化管内の餌生物断片からDNAメタバーコーディング法によって餌生物種の特定を試みた。その結果、過去の目視観察やスズメバチ属の蜂と比較して、本種はより多様な餌生物種を利用していた。また、本種は環境中の鳥類や哺乳類の肉も採餌していた。発表では、飼育巣と自然巣で野外から集める餌生物種の差異についても議論したい。