| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) D03-07  (Oral presentation)

栃木県奥日光地域におけるシカ柵による森林環境の違いがコウモリの活動量に与える影響
Effects of difference in forest environment caused by Sika deer fence on bats in Oku-Nikko, Tochigi prefecture

*小山浩亮(筑波大学), 牧貴大(東京大学), 安井さち子(つくば市大角豆), 上條隆志(筑波大学)
*Kosuke KOYAMA(University of Tsukuba), Takahiro MAKI(The University of Tokyo), Sachiko YASUI(Sasagi, Tsukuba city), Takashi KAMIJO(University of Tsukuba)

ニホンジカ(以下シカ)は森林構造等を大きく変化させ、間接的に鳥類や無脊椎動物等、他の生物にも影響を及ぼすことが知られるが、コウモリ類における知見はない。栃木県奥日光では、シカの植生への影響を軽減するために戦場ヶ原を中心に約15 kmのシカ柵が設置されている。本研究では、シカの高密度化による森林構造改変がコウモリ類に与える間接的な影響を検討するために、シカ柵の内側と外側でのコウモリの活動量の比較を行った。シカ柵の内外にそれぞれ12地点の調査地を設定し、各地点に自動録音装置(以下BD)を設置し、2022年7月に各地点4~7晩ずつ録音を行った。BDは超音波感知後15秒間録音するように設定し、録音されたコウモリの音声ファイル数を活動量と定義した。音声は、パルスの形状や周波数からホオヒゲコウモリ属型、ヤマコウモリ・ヒナコウモリ属型、キクガシラコウモリ属型、アブラコウモリ属型、テングコウモリ属型の5グループに分類した。各地点の森林タイプはBD設置地点の周囲直径20 mの円内の毎木調査から決定し、階層ごとの植被率と高さは目視により記録した。草本量は植被率と高さから算出した。シカ柵内外でのコウモリの活動量を比較するために各分類群の活動量を応答変数、シカ柵内外、森林タイプ、調査地点差を説明変数とするGLM解析を行った結果、キクガシラコウモリ属型の活動量が柵内で有意に高いことが示された。各分類群の活動量を応答変数とし、各林分構造要素を説明変数とするGLM解析の結果、キクガシラコウモリ属の活動量が草本量と正の相関を示した。また、ほかの分類群においても各林分構造要素との異なる関係性が示され、各分類群の飛行特性を反映していることが示唆された。以上の結果から、シカの高密度化は草本層の改変を通じて、キクガシラコウモリ属の生息地利用に間接的に負の影響を与えるということ、長期的にはほかの分類群にも影響を与える可能性があることが示唆された。


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