| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(口頭発表) D03-08 (Oral presentation)
隣接する2つの生態系は密接に繋がっており、生産性が高い系から低い系へと移動する資源は、受け手の系に生息する消費者の餌資源を補償する。山岳の高標高域に成立する高山生態系は一次生産性が低く、消費者は乏しい餌資源環境の下で生活する事を強いられている。その一方で、高山帯の残雪上には低標高域の森林で発生し、飛翔や風によって運ばれた節足動物が大量に落下している。それらの節足動物は、高山性鳥類が繁殖初期に利用する重要な餌資源になっている。高山帯で繁殖する鳥類は、厳しい冬の寒さを避けるために越冬期は低地へと移動し、春先に再び高山帯へ渡来し繁殖を行う。高山帯へ鳥類が渡来し縄張りを定着させるうえで、寒さが和らぎ植生が残雪から裸出することが重要だと考えられてきたが、山麓から高山帯へ運ばれる節足動物による資源補償の重要性については未検証である。本研究では、長野県乗鞍岳(標高3,026m)で2019年から2021年の5月から8月にかけて高山帯の残雪上で節足動物を採集した。また、ボイスレコーダーを用いて鳥類の鳴き声を2018年から2021年の4月から6月に、山地帯から高山帯にかけて記録した。記録した音声データはすべて聞き取り種同定を行った。高山帯の残雪上に落下する節足動物の個体数がピークとなる時期には、3年間で最大半月の違いがあった。カヤクグリ以外の優占的な鳥類種は主に4月下旬以降に高山帯で記録され、さらに、初認日のあとに数日から数十日間記録されなくなることがあったことから、高山帯に渡来後すぐには定着できないことが示唆される。各種は、6月以降はほとんど毎日記録された。そこで、動的サイト占有モデルを用いて、各鳥類種の高山帯における占有率の時系列変化を、各種環境要因で予測し、山麓から高山帯への資源補償が、各鳥類種の高山帯における定着に寄与するかを検証し報告する。