| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) D03-10  (Oral presentation)

流速にともなう種間相互作用強度の変化が淡水生物群集の安定性を左右する
Changes in species interaction strength with flow velocity affect the stability of freshwater communities

*西本誠(東京大学), 宮下直(東京大学), 今津健志(千葉県生物多様性C), 髙橋洋生(自然環境研究センター), 深澤圭太(国立環境研究所)
*Makoto NISHIMOTO(Univ. Tokyo), Tadashi MIYASHITA(Univ. Tokyo), Takeshi IMAZU(Chiba Biodiv. Center), Hiroo TAKAHASHI(JWRC), Keita FUKASAWA(NIES)

群集安定性の評価は、生物群集の基礎的理解を目指す群集生態学において重要なテーマの1つである。近年のメタ解析によって種間相互作用の符号や強さは、特に物理環境による影響を受けてしばしば変化しうることが明らかにされた。群集安定性は種間相互作用の強さによって大きく変動するため、そのような強度の空間的な変化は食物網や動態を複雑に変化させることで、群集安定性に影響を与えている可能性がある。だが、それを野外で調べるのは困難であり、自然界における安定性の挙動については未知であった。本研究ではその野外検証に向けて、野外データを用いて群集動態を推定する統計的なアプローチに着目し、千葉県印旛沼水系のカミツキガメ-アメリザリガニ-水草の3者系を対象に密度効果も含むすべての相互作用のパスに物理環境である流速が影響すると仮説を立て、種間相互作用強度と群集安定性の関係を調べた。
 本研究では、環境による種間相互作用の変化を明示的に考慮した上で群集動態を推定する多種状態空間モデルを構築し、カミツキガメ防除事業の11年分のカミツキガメとザリガニの混獲データ、衛星画像から推定した水草データを用いて解析を行った。解析の結果、3者系における種内・種間相互作用強度は全体的な傾向として流れの速いところで強くなることが明らかになった。また、このような相互作用強度の空間変化は群集動態に影響を与え、群集安定性に空間不均一性をもたらすことが分かった。流速と安定性の関係性は中程度の流速で最も安定となる一山型となったが、これは、流れの遅い環境における弱い種間相互作用と流れの速い環境における強い密度効果による自己制御の2つの安定化機構のバランスによって生じたと考えられる。今後、異なる流速下における被捕食関係を調べる実験を行うことで印旛沼水系の3者系における種間相互作用強度の流速依存性についての詳しいメカニズムの解明が期待される。


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