| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(口頭発表) E01-07 (Oral presentation)
群集内でよく似た色の花を咲かせる植物種は、共有する訪花者の行動を介し、互いの繁殖にさまざまな影響を及ぼす。中でも、訪花者の誘引効果の促進は、正の種間相互作用の例として興味深い。しかし同時に、訪花者はしばしば色がよく似た花を区別せずに訪れるため、これらの植物種間には、異種花粉の授受という負の相互作用も生じるかもしれない。では、誘引効果の促進による利益が異種花粉の授受による損失を上回るのは、どんな場合だろうか。今回演者らは、訪花者にとっては花色よりも近距離でないと発生源を特定し難い花香に着目し「群集内で遅れて開花する植物は、先に開花した他種と色が似る一方で香りが異なる花をもつことで、他種による誘引効果の促進を受けつつ他種からの花粉の授受を抑制できる」という仮説を、クロマルハナバチを用いた室内実験で検証した。実験では、まずハチに黄色い早咲き種の花を学習させ、次に遅咲き種として、早咲き種の隣りに黄色とよく似た橙色、または黄色と大きく異なる青色の花を出現させた。そして、3種の花で香りが同じ(リナロール+ゲラニオール)条件と、橙色の遅咲き種のみ花香が異なる(リナロールのみ)条件で、各色へのハチの訪花頻度と異種間移動頻度を記録した。その結果、香りが共通する条件では、橙色の遅咲き種は、青色の遅咲き種にくらべ高い訪花頻度を受ける一方で、早咲き種との間のより頻繁な異種間移動を被ることがわかった。一方、橙色の遅咲き種に早咲き種と異なる香りを付与した条件では、仮説の通り訪花頻度の促進は高く保たれつつ、早咲き種との間の異種間移動だけが減少した。自然界では、似た色をもつ花間でも、香りが異なる例は多いだろう。よって今回の発見は、従来考えられてきたよりも多くの植物種間で、訪花者の誘引を促進する正の相互作用が、群集内での花色の進化的・生態学的な収斂を引き起こす可能性を示唆するものとして興味深い。