| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) E01-08  (Oral presentation)

血縁認識による花ディスプレイの利他的ふるまいの進化
Evolution of altruistic behavior in floral display through kin recognition

*冨塚暖史, 鈴木準一郎, 立木佑弥(東京都立大学)
*Haruto TOMIZUKA, Jun-Ichirou SUZUKI, Yuuya TACHIKI(Tokyo Metropolitan University)

 近年の研究により、植物は周囲の他個体との血縁関係を認識する能力があり、これによって、遺伝的に近縁な個体に対してより協力的な行動を取ることが分かってきている。これまでの研究の多くは、土壌資源や光を巡る競争が血縁者間で緩和される現象に注目されてきたが、近年の研究では血縁者間の協力は送粉者をめぐる競争にも関係していることが明らかになってきた。兄弟と共に生育したMoricandia moricandioidesは非兄弟と共に生育した個体と比べて花弁への投資が大きいことが報告されている。血縁者と共に生育する個体は、花弁への投資を増やすことによって、送粉者をより多く引き寄せることができる。それに加え、周囲の個体の受粉率も同時に高めることができる。花弁への投資を増加させることによって、自身の種子生産が低下するようなコストを払ったとしても、周囲の血縁個体の受粉率が増加することによって、自身の包括適応度を大きくすることができるのだと考えられている。
 本研究では、植物が花弁などのfloral displayへの利他的投資を促す条件を調べることを目的とする。格子モデルを採用し、格子上のfloral display sizeの分布をもとに各植物個体への送粉者の訪花数が定まると仮定した。植物は、周囲の個体との遺伝的な距離を参照し、display sizeを決定すると考え、この状況依存的なfloral display sizeの進化を議論する。Floral display sizeと種子生産の間には線形のトレードオフを仮定し、進化シミュレーションを行った。その結果、送粉者がパッチのdisplay sizeに対してより鋭敏に反応する場合、種子散布距離が短く血縁者が互いに凝集しやすい場合、血縁者と非血縁者の判別基準(閾値)が高く、血縁者の判断が厳しい場合に、floral displayへの利他的投資が起こりやすいことがわかった。


日本生態学会