| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) E01-09  (Oral presentation)

雨滴散布植物の種子散布者としてのヤマコウラナメクジの有効性
Effectiveness of Nipponolimax monticola as seed dispersers for raindrop-dispersed plants

*北村俊平, 依田琳太郎(石川県立大学)
*Shumpei KITAMURA, Rintaro YODA(Ishikawa Pref. Univ.)

固着性の植物にとって、種子散布は分布を拡大できる重要な機会である。雨粒によって小型の種子が弾き飛ばされる雨滴散布では、種子の散布距離は限定的である。本研究では、雨滴散布植物のヤマネコノメソウとコチャルメルソウと同所的に生息するヤマコウラナメクジを対象として、給餌実験、体内滞留時間の測定、移動距離の測定、発芽実験を通して、本種による種子散布の可能性を検証した。2020年春にヤマコウラナメクジを個別のプラケースにいれ、ヤマネコノメソウまたはコチャルメルソウの果実1個を提示する給餌実験を4回ずつ行った。2020年12月にヤマコウラナメクジ10個体にニンジンまたはキュウリを給餌し、1分間隔のインターバル撮影で24時間観察し、それらの体内滞留時間を測定した。2021年1月にヤマコウラナメクジ10個体を石川県立大学キャンパス内の芝生上に放逐し、1時間の移動距離を測定した。給餌実験に利用したヤマネコノメソウ種子(ナメクジ排泄:3053個、対照:3514個)とコチャルメルソウ種子(ナメクジ排泄925個:対照:2592個)を播種し、発芽状況を確認した。本種は両種の種子を破壊することなく、外見上健全な種子を排泄した。最初の糞に含まれたニンジン、キュウリの平均体内滞留時間は15.4時間(N=14)だった。本種は1時間で平均0.91m(0.11-1.59m、N=10)移動した。最初に排泄した糞に含まれる種子の潜在的な平均種子散布距離は3.9m(2.3-6.1m、N=14)だった。ヤマネコノメソウの発芽率はナメクジ排泄が平均17.9%(N=69)、対照が18.5%(N=70)、コチャルメルソウの発芽率はナメクジ排泄が8.4%(N=68)、対照が7.3%(N=94)、両種とも処理間で発芽率に有意差は見られなかった。ヤマコウラナメクジは両種の発芽能力のある種子を散布し、その潜在的な種子散布距離は雨滴散布距離(0.1-0.8m)よりも大きかった。他の雨滴散布植物についても同様の実験を行うことで、これまで見過ごされてきた植食者による種子散布の重要性を解明することができる。


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