| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) E02-01  (Oral presentation)

ゲノム編集を用いてシロチョウ幼虫の食草適応機構を明らかにする【B】
CRISPR/Cas9 genome editing revealed mechanisms of host plant adaptation in Pieris butterflies【B】

*岡村悠(東京大学大学院, マックスプランク)
*Yu OKAMURA(University of Tokyo, MPI for Chem. Eco.)

一般に植食性の昆虫は、食草を摂食する際に植物の化学防御にさらされるため、これを解毒する食草適応機構をもつ。植食者の食草適応機構を解明することは、植物と植食性昆虫相互の進化的側面や、それに伴った両者の多様化を理解する上で重要であるが、植食者の食草適応機構が詳細に明らかになった例は少ない。
シロチョウ亜科蝶類(以下シロチョウ)の幼虫はアブラナ科草本を主な食草とする。アブラナ科草本には多様なグルコシノレートと呼ばれる二次代謝産物が含まれ、グルコシノレートは葉が食害を受けると毒性をもった物質に分解される。これまでの既存の研究によって、シロチョウの幼虫はnitrile specifier protein(NSP)と呼ばれるタンパク質を発現し、これがグルコシノレートの毒性物質への分解を妨げることが知られていた。最近の研究により、シロチョウの幼虫はNSPを常に発現しているわけではなく、食草のグルコシノレート組成によっては、ほとんどNSPを発現せず、その代わりにNSPの姉妹遺伝子で機能が不明であったMajor allergen(MA)を強く発現していることが明らかとなった。これは、シロチョウの幼虫がNSPのみでなく、MAも用いて食草に含まれるグルコシノレートに適応していることを示唆する。そこで、ゲノム編集を用いて、オオモンシロチョウにおいてNSP、MA、更にはNSPとMAのどちらも欠損した突然変異体を作出し、幼虫の解毒活性測定や摂食実験を行った。その結果、(1)NSPかMAの片方を失うと特定のグルコシノレート組成を持った食草を摂食した際に幼虫の成長量が低下すること、(2)NSPとMAを両方失った幼虫はグルコシノレートを含んだ食草を解毒し餌として利用する能力をほぼ完全に失うことが明らかとなった。これはシロチョウの幼虫がNSPのみでなく、MAも用いて多様なグルコシノレートを含んだ食草に適応していることを示す。本講演ではこれらの結果の紹介を踏まえ、非モデル生物におけるゲノム編集手法の可能性についても議論したい。


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