| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(口頭発表) E02-02 (Oral presentation)
数百万種といわれる地球上の生物のうち,昆虫は50%以上,高等植物は約20%を占め,昆虫の中でも植食性昆虫は約25%ととりわけ大きな割合を占める。したがって,生物多様性の維持機構を明らかにするためには,植食性昆虫と植物の相互作用をその関係に特徴的な性質に基づいて記述した大規模な数理モデルを構築し,生物群集の構造と動態を調べる必要がある。
多くの昆虫個体群は,世代が重ならない離散世代の動態を示し,密度効果や種間競争が弱く,個体数も種構成も時間的に大きく変動すると言われる。また,植食性昆虫には少数の餌植物しか利用しない狭食性を示すものが多い。これらの特徴を取り込んだ最も単純な数理モデルは,多数の植食性昆虫と植物を含む群集で,植食性昆虫と食草が一対一に対応するものである。ここでは,植食性昆虫同士の間の競争は無視しているが,光や水,栄養塩などの限られた共通の資源を利用する植物の間には強い競争が起こることを考慮する必要がある。
本講演では,離散世代の個体群動態を記述する多数の連立差分方程式からなる数理モデルを構築し,植食性昆虫と植物の間の相互作用が生物群集の動態や生物多様性に及ぼす影響を調べる。多数の種からなる群集動態モデルを解析的に取り扱うことは難しいが,モデルのシミュレーションを行うには,パラメータの値の選択に何らかの基準が必要である。そこで,植食性昆虫1種,植物1種の食う食われる関係での系の安定性をもとに,2種系の安定性と植物間の種間競争の強さによって植物―植食者系の多様性がどのように決まるか,そして,どのような場合に,各種の個体数が変動しながら多種が共存するかを調べる。この系では,植食性昆虫間の競争がなくても,植物間の競争によって多くの植食性昆虫の絶滅が起こることを明らかにし,植食性昆虫の多様性を理解するには昆虫と植物の間の双利や上位捕食者の存在を考慮する必要があることを示唆する。