| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) E02-03  (Oral presentation)

コケ上で多様化したダニ類における寄主特異性および分布の種間比較
Interspecific comparisons of host-plant specificity and distribution in a mite lineage diversified on mosses

*池田颯希(愛媛大学), 井上侑哉(国立科学博物館), 今田弓女(愛媛大学)
*Satsuki IKEDA(Ehime Univ.), Yuya INOUE(National Museum of Nat. & Sci.), Yume IMADA(Ehime Univ.)

 コケはタイ類,ツノゴケ類,セン類から構成される陸上植物である.コケと節足動物の種間関係についての研究は少ない.近年,タイ類・ツノゴケ類においては,特定の系統のみを食べるスペシャリストとして多様化した昆虫が,ハエ目とチョウ目の複数の系統で発見されている.だが,セン類を食べる節足動物では,特異的な寄主利用はあまり知られていない.
 Eustigmaeus属(ケダニ亜目)は世界から133種が知られ,その多くはセン類パッチから採取される.そのうち4種はセン類食であることが報告されているが,その他の大部分の種の食性は未知である.
 本研究の目的は,本属の未知のセン類食性種の多様性とその寄主利用を大規模な野外調査により明らかにすることである.そのため,まず,日本各地から様々な系統のセン類とそこに生息するEustigmaeus属を採集した.続いて,採取されたEustigmaeus属の形態種を識別した.そして,寄主への食痕あるいはダニの摂食行動を観察することで,セン類食性を確認するとともに野外での寄主を特定した.
 13県にて採集された72個体について53形質を精査した結果,Eustigmaeus属のセン類食性種は10種に明確に区別された.これらの種はすべて日本未記録種と考えられる.そのうち3種は特定の系統のセン類(シッポゴケ亜綱,サワゴケ属,ハイゴケ目)を特異的に利用することが示唆された.一方,様々な系統のセン類を寄主とする種も発見されたことから,寄主範囲に種間差があると考えられた.
 本研究から,本属のセン類食性種の未知の多様性の一端が明らかになり,また,一部の種においては寄主への特殊化も示唆された.本属とセン類との関係は,セン類食者の進化・多様化を探るうえで優れたモデルになるかもしれない.
 本発表では,ダニ類とセン類に特有の生態を加味し,寄主利用について議論する.


日本生態学会