| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) E02-05  (Oral presentation)

山岳風衝地内のマイクロハビタットの違いがコケモモの栄養成長と繁殖に与える影響
Effect of different  microhabitat at alpine on vegetative growth and reproduction of Vaccinium vitis-idaea

*杉本健介(日本大学大学院), 川合理央(日本大学), 小泉敬彦(東京農業大学), 福島慶太郎(福島大学), 松尾歩(東北大学), 陶山佳久(東北大学), 井上みずき(日本大学)
*Kensuke SUGIMOTO(Grad.Sch.Nihon Univ.), Rio KAWAI(Nihon Univ.), Takahiko KOIZUMI(Tokyo NODAI.), Keitaro FUKUSHIMA(Fukushima Univ.), Ayumi MATSUO(Tohoku Univ.), Yoshihisa SUYAMA(Tohoku Univ.), Mizuki INOUE(Nihon Univ.)

過酷な環境下において、他の植物種の成長や定着を促進する植物をナースプラントと呼ぶ。ナースプラントのサイズによっても保育効果に違いが生じることが知られている。長野県乗鞍岳ではハイマツ群落下にコケモモが生育しており、ハイマツ群落がコケモモのナースプラントとして機能すると考えられる。しかし、ハイマツ群落のサイズの違いがコケモモの成長や定着に及ぼす影響は明らかではない。そこで、ハイマツ群落周辺におけるコケモモの生育地を広範囲に広がるマット状ハイマツ群落下(M区)、小規模なパッチ状群落下(P区)、群落の外の裸地(O区)という3つのマイクロハビタットに区分し、それぞれの環境とコケモモの栄養成長特性および遺伝的多様性を比較することで、ハイマツ群落のナースプラントとしての機能を検証した。環境データとして風量、光量、気温、土壌物理性と化学性を測定し、コケモモの栄養成長特性として群落高、当年伸長量、LMA、葉の安定同位体比などを計測した。コケモモの遺伝的多様性はMIG-seqにより評価した。解析の結果マイクロハビタット間で環境の違いが認められた。風量と光量はハイマツ群落下のP区、M区で低く、気温は大規模なハイマツ群落下のM区で高かったことから、ハイマツ群落には防風効果、遮光効果、保温効果があると考えられる。コケモモの群落高と当年伸長量はいずれもハイマツ群落外のO区で最も小さく、P区、M区の順に大きかった。従ってハイマツ群落が地上の物理的環境ストレスを緩和することにより、コケモモの栄養成長が促進されると考えられる。また、ハイマツ群落のサイズとコケモモの遺伝的多様性に高い相関関係 (p < 0.05) が認められたことから、ハイマツ群落の存在がコケモモの有性繁殖による実生定着も促進すると考えられる。以上より、ハイマツ群落がコケモモのナースプラントとして、栄養成長、実生定着を促進することが示唆された。


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