| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) E02-07  (Oral presentation)

北八甲田山系における過去50年間でのハイマツ優占域の上昇
Upward range shifts of Pinus pumila over five decades in the northern Hakkoda mountains

*木澤遼(横浜国立大学), 近藤博史(横浜国立大学), 松本三千尋(横浜国立大学), 佐々木雄大(横浜国立大学), 嶋崎仁哉(東北大学), 彦坂幸毅(東北大学), 中静透(森林総研), 酒井暁子(横浜国立大学)
*Ryo KIZAWA(Yokohama Nat. Univ.), Hirofumi KONDO(Yokohama Nat. Univ.), Michihiro MATSUMOTO(Yokohama Nat. Univ.), Takehiro SASAKI(Yokohama Nat. Univ.), Masaya SHIMAZAKI(Tohoku Univ.), Kouki HIKOSAKA(Tohoku Univ.), Tohru NAKASHIZUKA(FFPRI), Akiko SAKAI(Yokohama Nat. Univ.)

ハイマツは日本の高山を特徴づける植物である.その分布域は気候変動の影響を受けやすい.しかし,これまでその検討は局所的で,山域スケールでの評価は不十分である.そこで本研究では,北八甲田山系における標高の異なる山頂を持つ3つの山域(井戸岳・大岳・小岳)を対象に過去約50年間でのハイマツの分布域の変化を検討した.

複数時期のオルソ化航空写真(1967,2003,2014年)をGISに読み込み,1400m以上の範囲に10mメッシュで調査区を設置した.2022年に現地で撮影したドローン(UAV)の画像も参照しつつ,ハイマツの被度が50%以上のセルをハイマツ優占域と定義して,各年代について目視で判読した.そして,ハイマツの優占域およびその変化(拡大・縮小)と10mメッシュのDEMから算出した環境要因との関係を,GLMMにより解析した.

当地域では過去50年間でハイマツの優占域は斜面に沿って高標高へと移動した. 3山域全体では優占域の中央値は12m上昇し,その速度は0.255m yr-1である.上昇量や上昇速度は山域によっても異なっていた.3山域の優占域は50年間で22%近く失われた.どの年代でも,南西向き・急斜面・高標高・30m四方で評価した凸地で有意に優占域が出現しやすいとの結果が得られた.また,斜面方位と標高の交互作用から,北・東向き斜面ではより高標高で優占することが示された.一方,縮小しやすい環境は,低標高・北東向き・急斜面・30m四方で評価した凹地で,拡大しやすい環境は,南西向き斜面・高標高である.つまり,低標高かつ融雪が遅い等の元来優占しにくい不適な環境では分布が縮小,一方それまでも優占傾向にあった高標高かつ融雪が早い斜面で分布は拡大傾向にあると言える.分布変化地点の種組成の変化をUAV写真から判読した結果,分布縮小地点はハイマツ群落から亜高山帯構成種(オオシラビソ,チシマザサ,ナナカマド等の低木)へ,拡大地点は矮性低木群落(ガンコウラン,コケモモ等)からハイマツ群落へと置換された.


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