| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) E02-08  (Oral presentation)

チュウゴクザサ更新初期の個体群動態に影響を及ぼす生態学的要因
Factors affecting regeneration process after mass flowering in a dwarf bamboo (Sasa tyuhgokensis).

*谷口直(東京都立大学), 松尾歩(株式会社 GENODAS), 富松裕(山形大学), 岡野邦宏(秋田県立大学), 陶山佳久(東北大学), 齋藤智之(森林総合研究所), 柴田昌三(京都大学), 鈴木準一郎(東京都立大学), 蒔田明史(秋田県立大学), 立木佑弥(東京都立大学)
*Nao TANIGUCHI(Tokyo Metoropolitan Univ.), Ayumi MATSUO(GENODAS inc.), Hiroshi TOMIMATSU(Yamagata Univ.), Kunihiro OKANO(Akita Prefectural Univ.), Yoshihisa SUYAMA(Tohoku Univ.), Tomoyuki SAITO(FFPRI), Shozo SHIBATA(Kyoto Univ.), Jun-Ichirou SUZUKI(Tokyo Metoropolitan Univ.), Akifumi MAKITA(Akita Prefectural Univ.), Yuuya TACHIKI(Tokyo Metoropolitan Univ.)

ササタケ類は長寿命一回繁殖型のクローナル植物であり、地下茎を介したクローナル成長を続けた後に広範囲で一斉に開花枯死する。その後、発生した実生個体群により更新し、数十年かけて個体群が回復していく。長いものでは120年に一度という長周期で起こるササタケ類の一斉開花はこれまで生態学者の興味を惹いてきた。しかし、発芽後どのようなプロセスで個体群が回復していくのかについての知見は限定的である。
そこで本研究では、2007年に一斉開花した京都市左京区大見のチュウゴクザサ個体群を対象に、一斉開花枯死後の個体群回復過程を解析し、個体群動態を規定する生態学的要因の定量化を行った。更新初期過程に与える要因として、局所密度、稈高、近交弱勢に注目し、一般化線形モデルの枠組みで解析した。
この個体群では、発芽後数年間は地下茎を介したクローナル成長が限定的であったが、発芽から4年目以降に旺盛な地下茎の伸長がみられ、稈密度が急激に増加した。稈密度は6年目に最大となり、その後減少した。一方、稈高は発芽から15年目まで単調に増加した。稈の死亡要因については、1)発芽直後は近交弱勢が有意に作用し、その後数年間はその作用が見られなくなるものの、稈密度が劇的に増加したタイミングで再び有意に作用した。2)クローナル成長が旺盛になり稈密度が高まると、密度が有意に作用し死亡率が高くなった。3)相対的に低い稈の死亡率が有意に大きかった。一方、クローナル成長による新規稈生産数については、密度が小さいときには、稈密度が高くなるほど新規稈生産数も高まるが、密度が十分に高くなると生産数が減少した。これらのプロセスにより、稈密度が十分に高くなると、個体群は定常状態に至ることが示唆された。さらには、密度依存性とクローナル成長による分布拡大の相互作用により、発芽初期には不均質であった稈の空間分布が一様へと均質化することが見いだされた。


日本生態学会