| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(口頭発表) E02-09 (Oral presentation)
東アジア沿岸域では地殻変動による造山運動と多雨により複雑な地形構造が発達する。日本の丘陵地では尾根と谷の間に侵食前線と呼ばれる傾斜変換線があり、それを境に、地表が安定的な尾根側に分布する種群(S群)と、地表撹乱が卓越する谷側に分布する種群(D群)とが生息地(地形ニッチ)を分けることが知られている。本研究ではその成立プロセスを検討した。
房総丘陵の集水域(3.4ha)において、均等に配置した840プロットのうち5回以上出現した高さ1m以上の木本63種を対象に分子系統樹を作成した。S群=40種(15目26科37属)、D群=23種(12目17科21属)である。両群とも針葉樹からバラ類キク類まで様々な分類群を含む。系統シグナル解析の結果、S/Dはブラウンモデルとランダムモデルの両方から有意に乖離しており、進化的形質とみなせることがわかった。
共通祖先から現生63種に至るまでに116回の種分化イベントがあり、うちSからDへのニッチシフトは主に科や属のオーダーで21回、DからSへのシフトは0回と推定された。
現生ではD群は落葉性/低木種、S群は常緑性/高木種の比率が有意に高い。そこでこれらの形質の進化との関係にも注目した。SからDへのシフトの第1のピークは40~50Myaで、ほぼ同時期に常緑から落葉、高木から低木への進化も集中していた。第2のピークは~20Myaである。種分化イベントあたりのニッチシフト確率は、二つの形質とは異なり現在に近づくほど増加傾向にあり、18Mya付近で3割に達していた。
以上から、古第三紀中期に起きた一般的なストレス環境への適応進化に加えて、モンスーン気候の発達等の影響下で新第三紀初期に様々な分類群が派生的に地表撹乱への適応形質を獲得し、後氷期以降に発達したと推定される現在の地形構造の下に集合・配列したことが、現生の植生構造の背景にあると考えられる。