| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(口頭発表) E02-10 (Oral presentation)
標高傾度においては、地理的に比較的短い距離間で大きな環境勾配が生じる。同一種内でも高標高に生息する集団と低標高に生息する集団の間には様々な形態的・生理的形質、遺伝子型に違いが見られることが多く、この違いはそれぞれの標高環境への局所適応の結果であると考えられる。
ハクサンハタザオ(Arabidopsis halleri Subsp. gemmifera)は日本全国に分布しているアブラナ科の多年草である。滋賀県伊吹山のハクサンハタザオ集団には、分布標高間で葉や茎の毛の有無などの明確な形態的差異が見られ、局所適応のよい研究材料となっている。発表者らはこれまで、伊吹山のハクサンハタザオ低標高―高標高エコタイプの間で生理学的形質の比較を行い、凍結耐性および低温下での光阻害耐性が高標高エコタイプでより高くなっていることを明らかにした。また、低標高エコタイプは低温に順化することで光阻害耐性を可塑的に向上させることが示唆された。
我々は今回、低―高標高エコタイプを交配させ作製したF2集団でも形質評価を行った。F2集団において「凍結耐性」「光阻害耐性」「葉表面の毛の密度」は互いに相関せず、分離した。この結果から、高標高エコタイプでこれらの形質の組が揃って高いのは自然選択の結果であると考えられた。また、伊吹山ハクサンハタザオの光阻害耐性について、「光化学系Ⅱの損傷されにくさ」と「損傷した光化学系Ⅱの修復速度」が負に相関し、二つの形質間に何らかの遺伝的(もしくは機能的)トレードオフがあることを明らかにした。
さらに我々は形質評価を行ったF2集団を用いてゲノムワイド関連分析(GWAS)を行い、各形質およびその可塑性と相関する遺伝子座を探索した。本発表では、GWASで特定された遺伝子座と野生個体のゲノム情報から得られた標高依存的な遺伝子多型の重複から、低温ストレス耐性の標高エコタイプ間変異に関連する背景遺伝子の候補の絞り込みを行った結果を報告する。