| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(口頭発表) E02-11 (Oral presentation)
小笠原諸島西之島は日本本土の南約1000kmに位置し、1973年の火山活動により新島として認識された絶海の孤島である。新島ではオヒシバ、スベリヒユ等の草本の生育が確認されているが、侵入経路は不明である。西之島周辺では多くの海鳥の生息、繁殖が確認されており、植物の分布拡大に貢献していると注目されている。
そこで本研究では遺伝学的手法を用いて西之島に生息するオヒシバの起源を探索することを目的とした。研究材料としてオヒシバを西之島、 日本列島本土、琉球列島、小笠原諸島などから413サンプルを収集した。本研究では遺伝性の異なる葉緑体DNA(cpDNA)と核DNAを用いて起源推定を行った。cpDNAでは42領域のスクリーニングを行った後、塩基配列を取得し遺伝的多様性、ハプロタイプを決定した。核DNAでは次世代シーケンサーを用いた塩基多型検出法であるMIG-seq法によって遺伝的多様性、遺伝構造を調査した。cpDNA多型スクリーニングの結果、9領域で多型性が確認され、多型生の高い5領域を分析した。核DNAの解析では2107SNPs検出した。多様性解析の結果、日本本土集団において高い遺伝的多様性が確認された。オヒシバ個体間の遺伝的な関係を調べた結果、近交係数が西之島以外の集団は9割程度にも関わらず西之島はほぼ0であり、その原因はヘテロ接合度期待値がかなり低いことにあった。また、cpDNAの解析で西之島のハプロタイプは父島など複数の島で確認された。核DNAにおいても父島や八丈島、奄美大島などと近縁であることがわかった。以上より、西之島に侵入したオヒシバ種子の数は1または少数であり、侵入回数は1度のみであると推定された。また、鳥類に微小な種子が付着している例があるため、西之島のオヒシバ集団は種子が渡りを行う鳥類の移動に伴い遠距離から運ばれた可能性が考えられる。