| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(口頭発表) E03-01 (Oral presentation)
近年の温暖化などの気候変動は、世界的な送粉者の減少やフェノロジカルミスマッチを引き起こし、それは送粉サービスの低下を介して種子生産を制限している。植物は受粉が不十分な場合、開花時間を延ばすことで送粉者の訪問数を増やし、種子生産の制限を緩和する可能性がある。しかし開花延長は維持コストを伴うことから、実際にそれが繁殖成功につながるかどうかは先行研究において見解が別れている。本研究では、受粉のタイミングを操作し、開花期の気温の異なる個体群で比較することで、開花延長が種子生産を補償するかを検証した。
調査は2022年の4月から6月に、多年生で自家不和合性の春植物エゾエンゴサク Corydalis ambigua を対象に開花期の気温が異なる北海道内の2サイト、嵐山 (10.5℃) ・雨龍 (13.3℃) で行った。受粉のタイミングを制御するために、次の受粉処理を施した: 開花すぐに受粉 (瞬時受粉); 開花5日後に受粉 (遅延受粉); 受粉させない (袋がけ); 無処理 (自然)。各個体の展葉・繁殖フェノロジー、当年の繁殖成功を調べた。また開花期中、自然個体で送粉者の観察も行った。
着葉期間は処理間で変わらず雨龍で嵐山より短かった。開花期間は受粉の遅れに伴い延びたが、その程度は雨龍では嵐山ほどではなかった。受粉が遅延しても種子散布までの日数は変わらなかった。当年の繁殖成功は両サイトとも瞬時受粉個体に対して、遅延受粉個体では種子生産数が56%少なかった。また、送粉者の観察により、自然個体の開花期間は送粉者の時間的変動に応じて決まることが示された。
以上より、開花期間の延長は、受粉機会の増加と気温の違いによる維持コストの増加のバランスにより決定し、個体群ごとに送粉者不足に対する開花期間の可塑的な応答が異なることが示唆された。また、開花延長は種子生産を完全には補償することができないが、送粉者不足の際に有効な戦略であることが示唆された。