| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) E03-03  (Oral presentation)

分布末端における高山植物コケモモの交配システム変異
Mating system variation of Vaccinium vitis-idaea at the southern margin of its distribution

*和久井彬実(富山県中央植物園), 工藤岳(北海道大学)
*Akimi WAKUI(Botanic Gardens of Toyama), Gaku KUDO(Hokkaido Univ.)

コケモモは北半球に広く分布する周北極性高山植物であり、日本はその分布南限にあたる。日本では主に高山帯に生育するが、北海道〜東北では風穴地や海岸草原など低標高の局所環境にも生育する。これまでの研究から、北海道には高山2倍体・低標高4倍体という異なるエコタイプが存在し、高山帯個体群は自殖能力が低いのに対し、低標高個体群は高い自殖能力を有することが明らかになった。本研究では、本州に分布するコケモモ個体群の倍数性と交配システムを明らかにすることを目的に、東北〜中部地方に分布する13個体群(高山11地点、低標高2地点)で調査を行った。
各個体群において、30個体から葉と種子を採取し、マイクロサテライト領域の遺伝解析により遺伝多様度と自殖率を推定した。また、各個体群についてフローサイトメーターによる倍数性測定を行った。更に、中部地域の4個体群において受粉実験を行い、潜在的な自殖能力や花粉制限の程度を調べた。
本州においても北海道と同様、高山帯個体群は2倍体、低標高個体群は4倍体であった。低標高4倍体個体群は東北に2地点存在するのみで、中部の個体群は全て高山2倍体であった。遺伝解析の結果、東北の2倍体個体群は自殖率が低く、4倍体個体群は自殖率が高い傾向が見られたが、中部の2倍体個体群の自殖率は比較的高い(30〜40%)と推定された。しかし受粉実験の結果、中部の2倍体個体群の潜在的な自殖能力は低いことが示された。また、中部では自然条件下での結果率が低く、花粉制限が強いと考えられる個体群も多くみられた。以上の結果から、倍数性の分布パターンや潜在的な自殖能力(2倍体は高山帯に分布し自殖能力が低く、4倍体は低標高に分布し自殖能力が高い)は北海道〜本州で普遍的であるが、分布末端域の2倍体個体群では強い花粉制限によって他家受粉が制限されることにより、自然状態の自殖率が相対的に高くなっている可能性が示された。


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