| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(口頭発表) E03-04 (Oral presentation)
固着性の植物も適応度に関わる重大な局面では「動く」。植物にとって花は生殖器官であり、送粉昆虫の誘引と風雨障害の回避を両立させるために、花を開閉させる、または、花の向きを変える運動がみられる。アブラナ科ハクサンハタザオでは、花が晴天時に上を向き雨天時に下を向く晴雨反転運動を示すことが観察された。本研究では、ハクサンハタザオの送粉昆虫組成を調べ、晴雨反転運動を定量化し、運動を引き起こすメカニズムを明らかにすることを目的とした。
目視とビデオ撮影により送粉昆虫組成を調べた。晴れと雨、曇りの日中に、野外で花の角度を測定し、晴雨反転運動を定量化した。運動を引き起こす環境要因と概日リズムの影響を室内操作実験により調べ、分子制御機構を明らかにするために花柄での遺伝子発現を調べた。
晴天と曇りの日中には白い花が揃って上を向き、ツリアブ、ハナアブ、ハエ、単独性ハナバチ、鱗翅目が多く訪花した。一方で、雨天時には日中であっても花が下を向き、昆虫の訪花がみられなかった。室内実験により、花が青色光の方向を向くこと、低温または光が弱い条件下では花が重力方向を向くことがわかった。また、一定の明暗期下から連続明期に移しても運動が続いたことから、晴雨反転運動は概日時計の制御下にもあるといえる。晴天時(花は上を向き)と雨天時(花は下向き)の花柄では、オーキシン関連遺伝子の発現が高まったことから、晴雨反転運動には花柄の細胞伸長が関与すると考えられる。雨天時の花柄では、重力感知遺伝子の一つの発現が顕著に高まった。これらのことから、花が上を向く運動には、青色光受容体であるフォトトロピンが関連する光屈性が関与し、花が下を向く運動には、重力屈性が関与することが予想される。今後は、晴雨反転運動の繁殖成功への貢献度を定量化する必要がある。