| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(口頭発表) E03-05 (Oral presentation)
多年生植物の一部では、数年間隔で大量の花・種子生産を行い、その繁殖タイミングが個体間で同調する一斉開花現象が知られている。しかし、繁殖が同調する空間スケールやその規定要因についての研究例は少ない。複数個体群において長期にわたる開花・結実に関する時系列データの取得が困難であることがその理由として挙げられる。多年生草本植物のバイケイソウ個体群では数年間隔で一斉開花が起こることが知られている。本種は根茎の成⻑痕から過去数年〜十数年間の開花履歴を推定できるため、個体群レベルで一斉開花の挙動を定量化できる。本研究では、バイケイソウ個体群間の開花同調パターンとその規定要因を解明することを目的とした。
調査は北海道内の23個体群(低地16・高山7個体群)で行った。各個体群で、30個体の根茎から開花履歴を推定し、開花個体割合の時系列データを取得した。このデータを基に、全個体群間の相関係数を算出して個体群間の開花同調度を計測した。そして個体群間の開花同調度と地理的距離、標高差との関係を解析した。さらに開花を同調させるメカニズムを調べるために、一斉開花と気象環境との関連性を解析した。
調査した個体群間では全道スケールで開花が同調する傾向にあり、個体群間の開花同調度と地理的距離には明瞭な関係は見られなかった。開花同調度は標高差の小さい個体群間では高い一方で、標高差の大きい個体群間では低いことが示された。低地個体群では2年前の生育期の気温が低い時に一斉開花する顕著な傾向が見られたが、高山個体群では気温による一斉開花への影響は軽微であった。以上から、バイケイソウ個体群間の開花同調度には地理的距離よりも標高差が強く影響しており、その要因として低地と高山個体群間で開花の合図(トリガー)となる温度の感受性が異なっている可能性が示唆された。