| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) E03-08  (Oral presentation)

新種として報告されたカワユエンレイソウの生息状況に関する生態学的研究
Ecological studies on the presence of Trillium channellii reported as a new species of white-flowered Trillium

*早川貴将, 相田大輔, 高木雄登, 大原雅(北大・院・環境科学)
*Takashi HAYAKAWA, Daisuke AIDA, Yuto TAKAGI, Masashi OHARA(Hokkaido Univ. Env. Science)

日本産エンレイソウ属植物は、現在雑種を含め9種が知られている。このうち8種に関しては、オオバナノエンレイソウ(2倍体)、エンレイソウ(4倍体)、ミヤマエンレイソウ(4倍体)の3種を基本種とした種間雑種と倍数化を伴った種分化過程が明らかになっている(Kurabayashi 1958)。本研究の対象種であるカワユエンレイソウ(カワユ)は、1996年に北海道東部の川湯地方に限定的に生息する白花の4倍体固有種として報告された(Fukuda et al. 1996)。このカワユの種形成過程を明らかにするためには、野外において本種を正確に同定する必要がある。そこで、本研究ではFukuda et al.(1996)に記載されている花器の形態的特徴に加え、東京都立大学牧野標本館(MAK)に収蔵されているholotypeも確認し、川湯地方においてカワユエンレイソウと判定される開花個体を採集し、染色体数を調べた。その結果、形態的にカワユと判定された開花個体の染色体数は30(6倍体)であり、4倍体は発見されなかった。そこで、幼植物段階の生息に関しても調べるため、開花個体に加え、幼植物も採集しフローサイトメトリーを用いて倍数性を確認したが、幼植物に関しても4倍体(カワユ)は検出されなかった。川湯で発見された6倍体に関しては、Fukuda et al.(1996)において報告されていないが、白花の6倍体であることから、6倍体シラオイエンレイソウ(6倍体シラオイ)である可能性を調査した。そこで、6倍体シラオイの生息地の中で川湯に最も近い網走湖畔に生育する6倍体シラオイと、川湯で発見された6倍体と花器形態の比較を行った。その結果、川湯の6倍体と網走の6倍体シラオイは形態的に一致することが確認された。したがって、今回川湯で形態的にカワユと判断された個体は6倍体シラオイであることが明らかになった。しかし、4倍体固有種カワユエンレイソウは現状最初に発見された川湯において確認することができず、報告された時点からの個体数の急激な減少が危惧される。


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