| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(口頭発表) E03-10 (Oral presentation)
樹木は長い年月成長しつづけ体細胞突然変異を蓄積する。その結果、枝により、また同じ幹や枝の部分により遺伝的に異なる。中立変異の遺伝分化構造が、茎頂分裂組織でのステムセルの分裂・置換・移動のダイナミクスによって決まることがわかった。
[仮定]シュートの先端にある茎頂分裂組織には複数のステムセルがある。非対称分裂によって後継のステムセルと分化細胞とがつくられ、後者が分裂で数を増やして幹や枝の細胞を作る。シュートが伸びるにつれ、ステムセル同士で異なる変異を蓄積する。ステムセルの時間的変化は、シュートを構成する細胞には根本から先端方向への高さの変化として現れる。まれにステムセルが後継ステムセルを残せないと、他のステムセルが複製してステムセル数を回復する。このとき左右のいずれかのステムセルが複製して埋めるとする。その結果、幹の軸に関して近い角度方向にある細胞同士が近く、軸の反対方向にある細胞同士は遠いという角度方向に関する遺伝的分化が生じる。幹の異なる場所からサンプルした2つの分化細胞の間での遺伝的違いを見積もるため、それらの細胞をつくったステムセル同士の間の違いに注目した。細胞間の違いは、それらの共通祖先まで辿る距離で測る。
[結果]次のような予測が得られた。
[1]樹木の幹では、高度とともに幹の周りの遺伝的変異量が増大する。
[2]その変異量は、ステムセルがより確実に後継ステムセルを残せるほど大きい。
[3]ステムセルが後継細胞を残せないときに隣接ステムセルが複製して埋める場合、幹を構成する細胞およびそれにつく枝の細胞に、幹の軸まわりの角度方向に関する遺伝分化が生じる。
[4]ステムセルの置換が隣接ステムセルに限る場合には、限らない場合よりも遺伝変異量が増大する。