| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(口頭発表) F01-01 (Oral presentation)
陸上植物の緑葉は、ほぼ例外なく波長400~700nmの光合成有効放射(PAR)をよく吸収し、750~1100nmの近赤外放射(NIR)を反射・透過しほとんど吸収しない。植物群落や葉群の単位地表面積当たりの葉面積の合計は葉面積指数(LAI)と定義され、LAIは光合成生産や群落蒸散量と密接な関係があるため、植物生態学や地球環境科学、農業など幅広い分野で、群落の機能指標として利用されている。非破壊的にLAIを直接測定することは難しいため、群落のPAR透過率や、青色波長域の透過率の空間分布などを利用したLAI推定法が広く普及している。一方、これらの方法は群落内外の同時測定が必要となるため、Kume et al. (2011)に基づき、群落内の透過NIRと透過PARの比率からLAIを高精度に推定する方法(透過NIR/PAR法)が実用化され、森林から農業まで、利用事例が増えつつある。透過NIR/PAR法の精度は入射日射のスペクトル安定性に依存しているが、入射日射のNIR/PARは、天空の条件によって10%以上変動し、日射以外の光源では入射光のNIR/PARは大きく変動する。群落のLAIとPAR吸収率との関係は1953年に発表された門司・佐伯のモデルによって説明され、葉群を黒体群として仮定したBeerの法則の吸光係数に類比した扱いがなされていたため、白色体に近いNIR域の減衰特性については全く注目されていなかった。しかし、葉のNIR域の反射・透過特性に注目した場合、均一な白色散乱体として扱うことが可能であり、LAIと共にNIRの散乱度が増加していくことが予想される。そこで、実際の森林群落における実測データで検証したところ、NIRの群落透過率はLAIと高い相関関係を持つことを確認した。さらに、LAIが大きな群落中ではPARは1%程度まで減衰するのに対してNIRは10%程度しか減衰しないため、NIRを利用するとLAI値が大きな領域でも精度の高い測定が可能であると予測された。これらの関係を利用すると、NIR光源を利用した能動的LAI測定装置の実現が可能であり、現在、開発を進めている。