| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) F01-06  (Oral presentation)

春期の積雪がブナ林冠木の開芽時期の年変動に及ぼす影響
Effects of spring snowpack on annual variation in the timing of budburst of Fagus crenata canopy trees

*石田清(弘前大学), 杉本咲(東北森林管理局), 大類瑞穂(弘前大学)
*Kiyoshi ISHIDA(Hirosaki Univ.), Saki SUGIMOTO(Tohoku Regional Forest Office), Mizuho ORUI(Hirosaki Univ.)

落葉樹の開葉時期は、季節適応に関わる重要な形質である。落葉樹は、春の気温の積算値が種や集団に固有の値(開芽積算温度)に達した時に開芽すると考えられている。このため開芽日は春の気温の変動に応じて年変動を示す。秋~春の冷温期間や春の日長は休眠と成長への影響を介して開芽日の変動幅を小さくし、最適な時期に開葉することを可能にしている。こうした季節性の進化に関わる気象要因として、開芽後に生じる晩霜害が研究されてきたが、積雪との関係は理解されていない。晩霜と積雪の関係についてみると、積雪は大気を冷すため、開芽積算温度を満たす日になっても積雪がある年は、その日までに消雪する年と比べて晩霜害のリスクが高いと考えられる。したがって、多雪地の集団において消雪が遅い年に開芽を遅らせるという表現型可塑性が進化している可能性がある。本研究では、春の積雪と開芽時期の年変動との関係とその消雪時期の傾度に沿った変異を解明するため、ブナの林冠木を対象に青森県八甲田山12地点(開芽日前後に消雪する「斜面少雪地5地点」と「盆地3地点」、毎年開芽後に消雪する「斜面多雪地」4地点)で気温・消雪日・開芽日を11年観測した。4月の気温を考慮して開芽日と消雪日の年変動を分析した結果、斜面9地点で消雪日と開芽日の間に正の相関が認められたが、盆地では有意な相関は認められなかった。さらに、開芽積算温度の変動について、積算気温が10~50℃日に達した日の積雪量を表す指標(積雪量指標)、日長、及び冷温期間との関係を分析した結果、斜面少雪地で積雪量指標と開芽積算温度の間に正の相関が認められた。一方、斜面多雪地と盆地では積雪量指標と開芽積算温度の間に有意な相関は認められなかった。以上の結果は、山腹斜面のブナは開芽時期に積雪が多い年に開芽を遅らせるという表現型可塑性を持つこと、そして盆地のブナはこのような表現型可塑性の程度が小さいことを示唆している。


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