| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(口頭発表) F01-07 (Oral presentation)
一部の落葉樹は、日長の変化を認識し冬芽の開芽時期を調節する。発表者のこれまでの実験から、落葉樹には、この日長認識の際に冬芽のみで光を受容する種(タイプ1)、冬芽と枝の両方で光を受容しており各器官への依存度が同程度である種(タイプ2)、冬芽と枝の両方で光を受容しているが冬芽への依存度が高い種(タイプ3)が存在することが示唆された。本研究では、これら3つ日長受容様式の違いを生理学的な観点から検証するため、器官特異的な遮光処理を施した冬芽と枝の植物ホルモンを分析した。ミズキとコミネカエデ(タイプ1)、ハウチワカエデ(タイプ2)、ブナ(タイプ3)の落葉樹4種を対象とし、各種の切り枝に①冬芽のみを遮光、②枝のみを遮光、③冬芽も枝も遮光、④遮光をしないコントロールの4つの処理を施した。コントロール処理の切り枝の半数の冬芽が伸びたタイミングで、10種類の植物ホルモンの含有量を測定した。その結果、ミズキとコミネカエデでは、冬芽に光が当たっているか否かで冬芽における植物ホルモンの組成が異なった。つまり、植物ホルモンの制御は冬芽での光受容にのみ依存し、枝での光受容の影響は受けないと考えられる。一方、ハウチワカエデでは、冬芽または枝での光受容が冬芽のホルモン組成に影響を与えており、両者に光が当たるとこの影響は大きくなることが示唆された。ブナでは、冬芽での光受容が冬芽のホルモン組成に影響を与えていた。また、枝のみでの光受容では冬芽のホルモン組成に影響は見られなかったが、冬芽と枝の両者に光が当たった場合にはホルモン組成への影響が見られた。このことから、ブナは冬芽と枝の両方で光を感知するが、枝による光受容の効果は冬芽支配的であると考えられる。これらの結果に加えて、枝における植物ホルモンの組成についても言及しながら落葉樹の日長受容様式の仕組みについて議論する。