| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(口頭発表) F01-08 (Oral presentation)
植物は光合成によって固定した炭素の一部をデンプンとして貯蔵し、光の得られない夜間それを分解してショ糖を合成することにより、昼夜を問わず安定した成長を実現している。このデンプンの代謝は日長に応じて調節されており、日長が変化してもショ糖の恒常性を維持し続けることができる。ショ糖の恒常性を維持するためには、デンプン分解の日周リズムを外的環境の日周サイクルに同調させる必要がある。この同調には、概日時計が関与しており、特にショ糖量に依存したデンプン分解の調節において、重要な役割を果たすことがわかっている。一方で、ショ糖量の変化が、概日時計とは独立にデンプン分解の活性を制御する可能性も指摘されているため、概日時計依存および非依存的経路の相対的な重要度やその分子実体を明らかにすることが求められている。本研究では、シロイヌナズナにおいてこれら2つの経路に関わる候補遺伝子の変異体を用いて、長日短日2つの条件で代謝データを測定し、候補遺伝子の機能喪失がデンプン代謝に与える影響を、数理モデルを用いて評価した。まず、野生型データからモデルパラメータの推定を行った結果、野生型ではどちらの日長条件においても分解速度を外的環境に同調させていることが明らかになった。続いて変異体の解析から時計依存な制御に関わる時計遺伝子やその転写因子、そして時計依存的な制御に関わるシグナル伝達経路の機能喪失によって、外的環境への同調ができなくなることが示された。さらに、時計非依存的な制御に関わる遺伝子でのみ機能喪失によるデンプン分解活性の低下が見られ、この経路は日長に応じてデンプン分解の基本活性を制御する一方、時計依存的な経路はデンプン分解のタイミングを調節する機能を担っていることが示唆された。これら二つの経路の統合によって、野外の変動環境に対しても植物がショ糖恒常性を維持し、成長し続けることが可能になると考えられる。