| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(口頭発表) F02-01 (Oral presentation)
国内外の半自然草原では管理方法が変わることで植物の多様性が減少することが問題となっている。国内の半自然草原では、火入れに加えて草刈りまたは放牧を行うことで、植物の多様性が最も高く維持されてきた。しかし、放牧や草刈りは重労働であるため、近年は管理放棄される、もしくは火入れのみに簡略化される草原が増加している。火入れによる草原管理は、放牧や草刈りに比べ、少ない頻度や労力で広範囲を管理できるが、現在希少になりつつある在来草原性植物種の多様性が低くなることが報告されており、多様性保全上の有効性は不明である。そのため、火入れのみでも多様性が維持される環境条件を解明することは、喫緊の課題である。
富士山北麓の梨ケ原は、年1回の火入れのみで管理され、形成年代の異なる溶岩またはスコリア上の草原が混在している。本研究では、土壌がより未発達な溶岩上の草原ではスコリア上の草原に比べ植物の多様性が高く維持されるという予測を立て、これを検証することを目的とした。溶岩草原とスコリア草原各25地点において1m×1mのプロットを合計100個設置し、プロット内の全維管束植物種、土壌水分量・硬度・深度、岩石率、植生高、植生被度を記録・測定した。植物の多様性や土壌特性、植生特性の基岩タイプ間の差異、植物の多様性が基岩特性や土壌特性、植生特性から受ける直接効果と間接効果の評価、および基岩タイプごとのプロット内の種組成や指標種の差異を解析した。
調査の結果、形成年の新しい溶岩草原では、硬く、浅い土壌がみられ、地表面の岩石の露出が多く、スコリア草原に比べて土壌形成が進んでいないことが示唆された。また、この溶岩上では、一般的に植物の多様性を低下させてしまうとされる火入れのみの管理下でも絶滅危惧種を含む高い植物の多様性がみられ、この高い多様性は、浅い土壌および低い植生高に起因して維持されていることが示唆された。