| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(口頭発表) F02-03 (Oral presentation)
淡水域の生物多様性の劣化は著しく、1970年から2020年までの間に、世界の淡水域に生息する野生生物の個体群は83%減少したとの報告もある (WWF, 2020)。日本でも、特に淡水生態系の基盤となる水生植物においては、約4割もの種が絶滅危惧種に指定されており (環境省, 2020)、生息地の消失や水質汚濁による個体数の減少は、早急に解決すべき重要な問題である。にもかかわらず、水生植物の生態学的知見の蓄積は未だ不十分である。水生植物は、湖沼の改修や水質汚濁だけでなく、湖沼の人為的な利用形態の違いに対しても敏感な反応を示すと考えられ、水生植物の動態と共に詳細な生育条件を解明することは、淡水域の生物多様性の保全策を模索する上で重要である。
青森県つがる市屛風山地域は、1970年以降の農地開発から砂採取により形成された多数の新規湖沼と既存の湖沼が混在している特異な景観を持つ。過去の研究から、同地域内の水生植物の多様性は非常に高いことが明らかになっているものの、調査が行われた湖沼は全体の2割にも満たない。本研究では、屏風山地域の水生植物相の全容を解明するとともに、地域内に形成過程の異なる湖沼が多数存在することに着目し、122湖沼を対象にそれぞれ水生植物相とその生育環境について調査し、水生植物の分布を決定する要因について明らかにすることを目的とした。
水生植物相調査の結果、確認された水生植物は73種、そのうち、絶滅危惧種は19種だった。出現した種を湖沼の形成年代で比較すると、特にカタシャジクモは多数の新規湖沼 (1970以降形成) で確認され、既存湖沼 (1970以前形成) ではほとんど確認されなかった。逆にミズドクサ、マルバオモダカ、ヒシ等の種は多数の既存湖沼で確認された。種の出現傾向が湖沼の履歴や現在の環境条件とどのような関係にあるのか、一般化線形モデルを用いた解析を行い、考察した。