| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(口頭発表) F02-04 (Oral presentation)
近年、浸透交雑によって供給された変異(=アドミクスチャー・バリエーション)が種分化を促進させることが明らかになりつつある。しかし、浸透領域を特定して、その表現型への効果や淘汰の痕跡まで調べた研究はまだ少ない。インドネシアスラウェシ島のマリリ湖群という5つの構造湖が河川で連結する古代湖群には、この湖群に固有の7種/集団のメダカ属魚類(Oryzias)が分布しており、これらの種/集団は二次的接触と交雑を繰り返してきたことが知られている。この湖群最大のトゥティ湖には3種のメダカ(O. marmoratus、O. profundicola、およびOryzias sp.)が分布しており、そのうち1種(O. marmoratus)は二次的接触により本湖に同所的に生息するようになったと考えられている。本研究では、O. marmoratusの二次的接触が、その他2種の分化に及ぼした影響を明らかにするため、本湖から採集された179個体の全ゲノムシークエンスを行った。一塩基多型情報を用いた集団遺伝構造解析の結果、3種に相当する3つのクラスターが検出され強い生殖的隔離の存在が確認された。しかし、低頻度ながらO. marmoratusとO. profundicolaとの交雑個体も確認され、浸透交雑の可能性が示唆された。F統計量の全ゲノムスキャンの結果、O. marmoratusとO. profundicolaとの間で浸透が起こったと考えられるゲノム領域だけでなく、O. marmoratusとOryzias sp.との間で浸透が起こった領域も見つかった。講演では、これら浸透ゲノム領域の固定指数(FST)や進化距離(dXY)にも着目しながら、O. marmoratusとの浸透交雑がO. profundicolaとOryzias sp.の分化に及ぼした影響について考察する。