| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(口頭発表) F02-07 (Oral presentation)
なわばりをもつ藻食性スズメダイが、地球温暖化が進行すサンゴ群集のレジリエンスにどのように貢献するかを明らかにすることを目的としている2016年の第三次世界的サンゴ大規模白化により、日本のサンゴ礁では、南西諸島を中心に被度にして50%を超えるサンゴが死滅した。サンゴの死滅後には藻類が繁茂した系へとレジームシフトする恐れがあるが、藻類を食べサンゴ着底の新たな基盤を拓く藻食魚の密度がレジリエンスを向上させる。なわばり性藻食者であるスズメダイ類は、各個体が一つ、摂餌の場となるなわばりを維持し、自らの餌となる糸状藻類が繁茂した藻園を形成するが、藻食者のみならずサンゴ食者も追い払い、なわばり内にはサンゴを含め様々な底生生物が棲み込む。なわばり性スズメダイは、種によって粗放的から集約的に至る様々ななわばり管理戦略を持つ。このように、さまざまに条件づけられるスズメダイのなわばり内で、どのようなサンゴ群集が形成されるか、なわばり内外で、サンゴ群体はどのような経時的変化を示すのか、6年間に亘って、沖縄県周辺海域で調査した。その結果、スズメダイのなわばり内には種ごとに特異なサンゴ群集が成立していた。集約的なスズメダイでは、大型藻類が除藻され、特にミドリイシやハナヤサイサンゴ属がなわばり内に多かった。これらのサンゴ種は枝状の骨格をもち、他種の共存を促進するキーストーン構造をもたらすが、大規模白化の際死亡率が高く、これらサンゴが失われることが大型藻類が卓越した系へとジームシフトしたことの指標とされる。粗放的なススメダイでもなわばり内には、なわばり外より種多様性と被度が高いサンゴ群集が成立した。観察を開始した翌2016年夏にサンゴの大規模白化が生じ、特にミドリイシ属のサンゴが30%という高い死亡率を示した。その後、スズメダイのなわばり内ではミドリイシが被度を回復させ、サンゴ礁のレジリエンスに寄与することが示されつつある。