| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) F02-09  (Oral presentation)

東北地方の離島における南方系マダニ類の確認
Collection of multiple southern species of ticks in remote northern island, Japan

*小峰浩隆(山形大学), 岡部貴美子(森林総合研究所)
*Hirotaka KOMINE(Yamagata University), Kimiko OKABE(FFPRI)

近年、気候変動等によるマダニ及びマダニ媒介感染症の分布拡大が世界各地で報告されている。例えば、アフリカで流行しているクリミア-コンゴ出血熱の媒介種(Hyalomma spp.)が、ドイツやイギリス、フィンランドといったヨーロッパ各国で確認された。アメリカでは、ライム病の媒介種(Ixodes scapularis)の分布域が北方に拡大し、感染者数も増加している。日本においても、日本紅斑熱やSFTSの媒介種である南方系のマダニ類が、既知の分布域より北方で確認されつつある。しかし、東北地方のマダニ類の生息状況に関する報告は少なく、特に離島での報告はほとんどない。そこで本研究では、マダニ類の生息状況を明らかにするために、東北地方の離島において調査を行った。山形県の飛島において、9つの調査ラインを設定し、2021年6月-8月に旗ずり法を用いて植生上のマダニを採集した。採集したマダニは実体顕微鏡を用いて形態的に同定した。その結果、ヤマアラシチマダニ (Haemaphysalis hystricis)、タカサゴチマダニ (H. formosensis)等の南方系マダニ類5種及び、キチマダニ (H. flava)、ヤマトチマダニ (H. japonica)等の4種を含む計9種類が確認された。85%が成虫、14%が若虫、1%が幼虫であった。成虫の64%がH. hystricis、14%がH. formosensis、12%がH. flavaであり、これら3種で全体の90%を占めていた。今回採集されたマダニ類はこれまで東北地方本土で報告された種組成とは大きく異なり、東北地方以北で初めて確認される種も含まれていた。また、成虫が多くを占めていた事から、飽血若虫が島内で脱皮したと考えられる。本島には、宿主になり得る哺乳類として、ジネズミやネコが生息しているが、家畜を含め大型種は生息していない。一方で、本島は渡りの中継地として多くの鳥類が利用する事から、鳥によって南方系マダニ類が島に供給されている可能性が考えられる。本研究は、離島が鳥によるマダニ分散の最前線・中継地になっている可能性を示唆するものである。


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