| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(口頭発表) F02-12 (Oral presentation)
表層崩壊は世界の山岳地における主要な自然撹乱であり、気候変動による集中豪雨イベントの増加によってその頻度や規模の増加が予想されている。表層崩壊後の森林回復は、斜度が小さく、未撹乱の植生パッチや土壌、枯死木(以下、レガシー)が多く堆積する斜面下部で速く、急傾斜でレガシーに乏しい斜面上部で遅いことが実測研究で示されている。また、谷底部に近い斜面下部では湿潤環境を好む樹種が優占する傾向にある。しかし、多様な環境条件を持つ表層崩壊地における森林回復の総合的な理解のためには、モデルによる長期的かつ広域での回復評価が必要である。状態遷移モデルや林分動態モデルを用いた先行研究では、斜度やレガシー量の違いによる回復プロセスは再現できていない。火災や風倒等の撹乱後の植生動態を計算できるプロセスベースの森林景観モデルを応用することで、表層崩壊地の環境条件やレガシーの状態に応じた森林回復をシミュレーションできると期待される。本研究では、(1)森林景観モデルLANDIS-IIで表層崩壊後の森林回復を予測するためのモデル改良とパラメータの調整を行ない、(2)斜度やレガシー、周囲の崩壊面積率が地上部バイオマスと樹種組成の回復に与える影響をシミュレーションした。まず、斜面上の位置による表層崩壊後の森林回復の違いを表現するために、斜度と土壌湿潤度に応じて定着確率が計算されるようにLANDIS-IIを改良した。次に、改良したLANDIS-IIが実測の地上部バイオマスと種組成の回復を再現できるように、交差検証によってパラメータの調整と結果の検証を行った。改良したLANDIS-IIにより、斜面上の位置による表層崩壊後の森林回復の違いを表現することに概ね成功した。改良したLANDIS-IIを用いて北海道厚真町の表層崩壊地全体で100年間の植生動態をシミュレーションした結果、斜度が小さく、レガシーを含み、周囲の崩壊面積率が小さいグリッドほど、地上部バイオマスや樹種組成の回復が速いことが示唆された。