| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(口頭発表) F03-01 (Oral presentation)
地球上の多くの昆虫は、その体内に共生微生物を保持しており、厳密な相互作用をおこなっている。Coreoidea(ヘリカメムシ上科)に属する多くのカメムシは中腸の後端部に存在する盲嚢と呼ばれる袋状の組織にBurkholderia sensu lato細菌を特異的に保有しており、そのほとんどは毎世代土壌中から共生細菌を獲得する水平伝播共生系である。今までに調査されたカメムシ-Burkholderia sensu lato共生系の多くは、宿主が共生細菌を環境中から獲得する水平伝播共生系であることが知られている。環境中には宿主にとって有益なものから病原性を示すものまで多様な細菌が存在する。このように、水平伝播共生系の場合、毎世代有害な細菌を取り込んでしまう可能性があることから、宿主に利益を与えず利己的に振る舞う寄生者の感染を防ぐ仕組みは、共生系の安定した維持において必須でありカメムシ-Caballeronia共生系のモデルとして良く研究されているRiptortus pedestris (ホソヘリカメムシ)では、共生細菌を選択的に取り込む仕組みが詳しく研究されてきたが、今回我々は、チャモンナガカメムシから単離されたBurkholderia sp. SJ1株が、CR部を突破して宿主カメムシの共生器官に定着するにも関わらず、最終的に宿主を殺してしまう、致死性の病原性細菌であることを明らかとした。また、Burkholderia sp. SJ1は宿主の抗菌ペプチド、消化酵素に対して強い耐性があることが示唆された。加えて、顕微鏡観察の結果、この細菌はCRを突破する際に重要であると考えられるドリル運動性を持つことが明らかとなった。これらの結果から、Burkholderia sp. SJ1は、宿主が発達させた幾重もの選別機構を掻い潜る能力を持ち、宿主の共生器官に潜り込む致死性の病原性細菌であると言える。このような病原性細菌の存在は、共生者に対する宿主の選別機構に強い選択圧をかけるため、現在の洗練された共生細菌選別機構の進化を促してきた可能性が考えられる。